第15話 終わりの準備
クラスメイトは約束してもなおなかなか言い出せないようだった。そして数分経った後、覚悟を決めて話を始めた。
「松雪さんはご婚約が決まったんですよね」
「ええ、先日決まりました」
「そのことで私たちクラスメイトは親伝いに一つ指示が出されました。あなたの監視です。あなたが婚約者がいながら他の男子とつるむような真似をするのならば報告しろ、と。そう指示されました」
「そんなことが……」
「はい。あなたのお父上様は特に烏丸さんとのことを警戒しているようでした」
烏丸とのことまでクラスメイトに知らされているだなんてプライバシーの侵害にも程がある。
元からクラスメイトたちが監視の役割を負っていたのはわかっていたが、婚約者がいる今はもっと厳しく監視されるのだろう。良子は怒りを通り越して恐怖を感じた。
「そうだったのね。教えてくれてありがとうございました。これでようやく覚悟が決まりました。貴方たちクラスメイトまで巻き込むわけにはいきませんから」
「むしろ監視なんてして、なのにこんなこっそり伝えるしかできなくてごめんなさい。でも、このことを私が言ったことは本当に内緒にしてください。でなければ私たち家族は今の土地を追い出されてしまうから」
「十分承知しているわ。貴方は私と同じ町の出身ですから」
古い道具部屋のような普段入ることのないような部屋から2人が同時に出てきたことを見られては、何を話していたのか疑われてしまうかもしれない。それくらいクラスはぴりついていたのだ。
結局時間をずらして別々に教室へ戻ることになった。
教室に戻る間、良子は考えていた。監視の目が強まった今、今まで通り烏丸と話すことはもはや不可能だろう。夏休みが開始するまでが期限だと思っていたがもはや一刻の猶予もなくなってしまったようだ。
(クラスも下校時間ももう普通に話すことは無理そうね。忠告してくれたあの子には感謝しなくちゃ)
覚悟は決まっている。後は手段だ。
直接話すことはできない。連絡ができるような端末も持っていない。ならばとれる手段は1つ。古典的だが手紙だ。手紙ならばきっと逃げ隠れしながら、まわりに怯えながら直接話すよりも多くのことや気持ちを伝えられるだろう。
「松雪さんおかえり。さっきの続きだけどさ」
「ごめんなさい。ちょっとやらなければいけないことが出来てしまったの。また後でもいいかしら」
「やらなきゃいけないことって?」
「後になったらわかるわ。だから今は内緒」
手紙の内容は1時間目から4時間目までずっと考えていた。勉強熱心なのに勉強できる場が限られている良子にとってはほぼあり得ないことだが、それほど烏丸に伝えたかったことが沢山あったのだと気づくには時間がかかった。
考えを文字に起こして手紙をしたためたのは図書館である。図書館ならばもったいないことではあるが利用者が少ない。烏丸が教室に居ればクラスメイトが烏丸との密会を予想して図書室まで監視に来るクラスメイトもいないだろう。万が一いたとしてもわざわざ書いているものの中身まで確認しようとまでする者も少ないだろう。
問題は烏丸の行動だが、烏丸に良子は今は内緒といってある。それを暴きに来るような真似はしないと良子は信じていた。
昼休みが終わる直前まで1枚の紙にたくさんの気持ちを書きだした。
本当はもっと書きたいことも、伝えたいこともたくさんあるがここらが潮時だろう。でなければ半永久的に手紙を書いてしまいそうだ。さすがに手紙と称して分厚い紙の束を渡すわけにはいかない。
(終わりがみえてしまったわね、烏丸君)
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