第13話 顔合わせ
連れて行かれたのは良子たちが住む場所からだいぶ離れた場所にある料亭だった。どうやら相手はまだきていないようだ。
受付で名前を言えば、個室が予約してあるらしく、先に個室へ通された。
個室は和室で、外を見れば季節の花に生い茂った木々、そして鹿おどしが見えた。
(綺麗なところね)
庭を眺めること約5分。部屋の外が少し騒がしくなった。
(あら、お相手のご家族がいらっしゃったのかしら)
良子の予想は当たりだったようだ。個室の襖が開かれる。そこから、控えめな色の着物を着た女性とスーツを身に纏った二人の男性が入ってきた。
「本日は私どもから提案いたしました縁談に興味をお持ちいただき誠にありがとうございます」
入り口側にいる相手家族が頭を下げた。
父と母に続いて、良子も慌てて三つ指をついて頭を下げる。
「いえいえ。ありがとうございます。ささ、皆さん顔をあげてください。自己紹介と行きましょう」
それぞれテーブルにつき、自己紹介が始まった。といっても主役はそのお相手の男性と良子だ。親の自己紹介は終わり、遂に良子の番が来てしまった。
「初めまして。わたくし松雪良子と申します。末長く縁を結ばせていただけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします」
良子はまた三つ指ついて頭を下げた
「ご丁寧にありがとう。僕は米山優。君と会えて嬉しいよ。これからお互いを知っていこう。
僕からも縁を結ばせていただけたらと思います」
「さて、お互いの意思が確認できたことですし、大人は退散して、子供たちだけで親睦を深めてもらいましょうか」
米山の奥様の声がけで大人たちは退散し、残されたのは良子と優だけである。
「ねえ君はさ、どこの学校に通っているの」
「学校……ですか。わたくしはここのような都会よりもうんと田舎の学校に通っております。米山様は、どこの学校に通っていらっしゃるのですか」
「僕はこの辺りの私立高校に通っているよ。男子校なんだ」
「そうなんですね」
「このままじゃ遠距離恋愛になってしまう。よし、決めた! 僕がそっちの学校に転校するよ。そしたらきみといる時間が増える。どう? いい考えだとは思わないかい」
「……良い考えだと、思いますわ」
「さっきから僕が話題を振ってばかりだったね。すまない。きみから僕に聞きたいことはある?」
「そう、ですね」
この場において発言権があることに驚いた。質問などしてはいけないと思っていた良子は戸惑いつつもどうしても聞けるのならば聞いておきたかったことを聞くことにした。
「なぜわたくしを選んだのですか?」
優は考えるそぶりも見せずすぐに答えた。
「僕はいずれ会社を継ぎ社長になる。その奥方として恥のない振る舞いをしてくれれば他のことには口を出すつまりはない。でもそこを勘違いしている子たちもいっぱいいる。求める振る舞いができそうな子を探していたら君を見つけたんだ。うちや君の家みたいなところに生まれた者がどうなるか、わかるよね」
「はい。会社を大きくする駒として使われます。女ならば縁を繋ぐための駒に、男ならば後継者として厳しく躾けられるでしょう」
「そう! それがわかっている子が良かったんだ」
「そう、なんですか」
「きみは僕が探していた理想のお嫁さんかもしれない。今はまだ婚約の段階だけど、時期が来たら結婚も考えている」
「えっと、そこまで考えてくれるのは嬉しいのですが、本当に私でいいんですか?」
「ま、それはこれから試していくんでしょ。まずは学校生活。僕はきりのいい9月から転校するよ。学校ではよろしくね」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
これで烏丸とはもう話すこともできなくなるだろう。良子は胸の中で渦巻く怒り、困惑、なんで私がこんな目にといった思いを少しでも外に出さないと破裂しそうだ。
良子は誰にもバレないように小さくため息をついた。
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