第10話 さびしいな

「勝手なことをほざきおって。帰れ!そして二度と良子に付きまとうな!」


 それだけ言って父親は怒りが滲み出るその体で家へと帰っていった


「ごめんなさい。父がなんて失礼なことを……どうお詫びすればいいか」


「お詫びなんていいよ別に。俺何もされてないし」


「でも」


「じゃあ今度俺の秘密、聞いてくれる?」


「秘密を、聞く?! それ私にしゃべって大丈夫なの? 無理してない?」


 良子は烏丸の肩をつかんで前後に振った。


「大丈夫なやつだから安心して。あんなに言いたがらなかった傷のこととか家のこと知っちゃったからさ、俺からも何か差し出さないと不公平でしょ」


 ガクガクなりながらもちゃんと喋り切った烏丸。もちろん良子の非力な手ではなんのダメージも与えられていなかった。


「じゃあ、今すぐ家事しないとだから。じゃあね! 烏丸くん。あと迷惑かけてごめんなさい」


「気にしなくていいよぅ。じゃあね松雪さん。また明日」


 だがまた明日は来なかった。


 家に帰れば予想通り父親は鬼の形相で待っていた。


「門限も破る、家事もやらない、外で男まで作るとは何事だ!!」


頬を拳で殴られて廊下の端にによろけてしゃがみ込む。


「申し訳ありません。お父さん。しかし烏丸くんは違います。恋愛なんかじゃなくて友人です」


「口答えをするな! 今日から顔合わせまでの一週間自宅で謹慎だ! 一歩たりとも外に出たら今度こそ許さないからな」


「そんな、学校は」


「女に学など必要ない! 全て欠席だ」


 その後何箇所か思いっきり蹴られ髪の毛を掴んでそのまま壁に顔面を叩きつけられたりした。


 暴力の嵐が過ぎ去り自分の状態を確認すると、なんとか骨折は免れていそうだった。


 それに謹慎を告げられた時絶望したのは学校の授業を受けられないことではなく、烏丸に会えないことにショックを受けていたことに驚いた。


「烏丸君にも会えないのか。お詫びにクッキーでも焼いてもって行こうと思ってたのにな。それに一週間も会えないだなんて」


—さびしいな


 そんなことを考えているうちに鼻血が出て来た。きっとさっき顔面を叩きつけられた時のものだろう。制服を汚さないように鼻にティッシュを当て、汚れた床も全て拭き取った。ここでまた血が残っているときっと殴られるんだろうなと良子は思っていた。


 晩御飯が終わってから謹慎がはじまった。てっきり部屋から最低限以外出てくるなと言われると思っていたら、使わなくなって結構経つ蔵の中に押し込められて、なんと鍵までかけられてしまった。


 こんな暗い場所で一週間を過ごすだなんていったい何年ぶりだろうか。きっと小さな頃にほんの小さなわがままを言った時以来だろう。良子はその時に自分の両親、特に父親には逆らっていけないと身に染み込まされたはずだ。

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