第12.5話・不明なデータファイル
「テメェ……その姿になってまでこいつを助けたいかよ」
「当たり前だ。クズだった頃の俺でもこんなにボコボコになっている嬢ちゃんを見るのは初めてだ……。やはり、ここの連中はクズだったな」
彼女は太陽のような明かりを持つ炎をその手に槍として握り、構えた。
「行くぞ、要注意団体“神断談信”幹部―――
「上等だゴラァ!」
そこからは、正しく神代の戦いと言ってもいい。
東を守る幻獣―――青龍の力を宿す幹部と太陽神―――天照大神の力を宿す叛逆者。字面だけ見れば、心躍るかもしれないが、それは残酷無比な殺し合いだということを、理解していただきたい。
まず最初に動いたのは天照だった。槍―――そう言っても良いのだろうか―――を右手から左手に持ち替え、そしてどこからか剣を取り出した。
「早々に決めさせてもらおう。『
アマノサカホコ―――恐らく天逆鉾が漢字として正しいと思う。この天逆鉾は、天地開闢の際、伊邪那美命と伊弉諾尊に授けられた一本の槍である。その槍は、全てがドロドロだった時、入れてかき混ぜれば大地が生まれたとされる。
もう片方の剣の名は天叢雲剣―――別名「草薙剣」。古代大和において海を支配していた三貴子の一柱・素戔嗚命が八首の怪物・八岐大蛇を討伐した際に尻尾から出てきた剣。そして、英雄・大和武尊が火事になった際に、戦場から逃げるときに
「ハッ!その程度かよ、秘密警察サマ!『
水ノ上が取り出したのは先程まで握っていた渦を巻いたような形をした槍ではなく、もう、渦巻きそのものを槍状にして握っていた。
そして、水と焰。相容れぬ二つの性質が強制的に交わる。その瞬間のエネルギーは想像を絶するもので、とてもではないが、私でも立っていられるのが精一杯という感じであった。恐らく、“想像力”の補助もあったおかげだろう。エネルギーを無限に打ち消し、相殺していたのだ。
しかし、忘れてはならない。こちらがわ―――天照が持っているのは『
「もう一本を警戒しておくべきだったな。終わりだ。水ノ上!」
天照が剣を振り上げる。普通、あのような剣は両手で振るのだが、片手で振るのは初めて見た。何という筋力。私なら、あの剣を持っているだけでも精一杯で、振り上げることすらできず宝の持ち腐れとなるだろう。そのようなことにならないよう、日頃から筋力をつけなければ。
「勿論、警戒していたんだよ、俺は、さいっしょから!―――もういっちょ!『
今度現れたのは二本のクロスしている剣。それが縦横無尽に飛び回り、天照の攻撃を妨害していく。見たところ、『
その後、この神代の戦いは三日三晩続いた。その間に、私は、この屋敷から逃げ出すことに成功したのだ。
―――逃げた逃げた逃げた。どこまでも逃げ続けた。あの忌々しい屋敷からとても遠いところへ逃げた。もう、恥もためらいもなかった。あの私のために命をかけて戦ってくれた天照という女性さえ、どうでもよかった。今の自分は、人間としての理性を残したただの獣だと、自分を嘲笑った。
「……やっと見つけたぞ。手間を掛けさせやがって」
ヒッ、と情けない声を出してしまった。その路地の角から出てきたその人物は―――あの天照という女性だった。とても、失礼なことをしてしまったと思っている。
「ご、ごめんなさい。どうしても逃げたくて……ここまであなたを置いてきてしまったの。本当は、あの戦いを見守らなければならなかったのに……本当にごめんなさい!」
「君が謝る必要はない。君には、そんな義務はないし、あそこの連中は全員がクズだ。逃げてきて正解だ。そのために私が来たのだから。しかしだ。君が逃げたことは誰も咎めないだろう。その、逃げという行為は後々役に立つか、ただの愚行となるかが重要だ。私も、戦いで受けた傷でそう長くはないだろう。だから、せめて、君に正しいを教えてやりたい」
私は、その誘いを受け、彼女の家に居候することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます