第10.31話 Halloween Hack!!

 ざわざわと騒がしい交差点。ネオンライトの彩る都会のビル街。あたりには人が、当然だが溢れかえり、その波に飲まれないか心配になって上から見下ろしている。

―――そう。ここは新帝都“トウキョウ”の流行街―――若者の街、商売街“シブヤ”の昔はスクランブル交差点と呼ばれていた、クロス・オーバー・ロードである。

 しかも、今日は俗に言うシブヤハロウィンの真っ只中―――十月三十一日である。先程も言ったが、当然だが、シブヤは人で溢れかえっている。

 様々な仮装をしている人が見えるが、その中でも特に目を引くのが、なんか婚姻届の格好をしている人だ。まあ、人は千差万別で、人によって好き嫌いがあるわけだ。そうやって、人の格好をとやかく言う資格は、私にはない。

 本題に入ると、なぜ私―――いや、私達キュグデがいるのかということになるだろう。その答えは実にシンプルだ。それは―――

「みなさーーーーーーーん!こんにちは〜〜〜〜!キュート・アンド・グレート・デビルズです!今からハロウィーン特別ゲリラライブを開催しまぁす!なお、フリーライブなので無料で見られま――す!ぜひ見て言ってください!では、最初の曲から行きましょう!最初の曲は『アイ・ドント・ノー・ビター〜オール・フォー・ミー〜』です!どうぞお聞きください!」

 そう。特別イベント―――スペシャルイベント(意味は変わらない)で、シブヤハロウィンの時に一切公表せず、ゲリラで計画したライブ―――ゲリラライブをしよう!という事になったので、私達はシブヤにいるのだ。

 そこで、曲紹介の際に、どこぞで見たような演出がされる。こころの“想像力”の権能で、空中に炎で文字を書く。ちなみに、彼女はこの技を発動する準備をするとして、町中でイチャつくカップルを藁人形と呪符を持ち、自身の血で魔法円を書き、聖三角形を描き、祭壇だの何だの色々準備して、本当の悪魔を召喚する準備をして―――ついでに呪う準備をして―――見ていたらしい。そして、その炎だが、何時もより火力が強い。もう少し制御してくれないと私達に燃え移っちゃう。

 かくして、曲が始まり、別段その後数十分、異常はなかったのだが、しかしライブを開始して数十分が過ぎたあたりで異変が起きる。

 バチンッ!と激しい音を立てて機材がストップした。いや、違う。シブヤの全ての電気を管理している超管理システム「ジャパニーズ・トール」が落ちたのだ。

「あれ?電気が止まった」

 最初は、全員その様な反応だった。しかし……それは起きた。

 今度は一斉に電気が復旧し、シブヤ中のモニター・スピーカーがついた。シュピン、シュピン!という効果音が付きそうなほど連続してモニターがついた。

 そして、ある映像が流れ出した。


 ザッザザ、ガサッ!

『シブヤに居る諸君。ハロウィンは楽しんでくれているかな?私の名はモノノベ。これから、君たちの命を賭けたゲームを開始する。ルールは簡単。制限時間内に時限爆弾を解除して、私のところに来ることだ。では、諸君!闇のゲームの始まりだ!』

 プツン!


 この様な、ふざけた映像だった。正直、別段警戒すべきものでもないと思った。このシブヤハロウィンでは、ユーラシア戦争以前の旧日本国首都東京の繁華街“渋谷”でも、この様な悪ふざけが多発し、実際に逮捕された者も居るみたいなので、よくあることと処理していた。

 しかし、それは大きな間違いだったのだ。

 数秒後、スピーカーから声が聞こえた。

『3、2、1、0―――起爆』

 それは、先程のモニターの映像の人物と声が一緒だった。低い男性の声―――しかし、姿はドクロの仮面を被った人物としか見えない。

 その直後、ビルが爆発した。爆発したのは大型複合施設。もちろん、今日はハロウィンなので当然人がたくさんいた。爆炎が燃え盛るビルから、何人もの人が、その衝撃でビルから落とされていた。一般人の悲鳴も聞こえる。

「予定変更だ!」

 プロデューサーがこちらに走ってきて話をする。

「今のシブヤはとても危険な状態だ。よって、我々『ル・リエー』と政府組織でこの状況を終わらせることにした。理由はシブヤ周辺で活動している“想像力”使用許可申請済み団体が我々しか居なく、今の状況を最も解決できるのは我々だけだからだ!……と、言うのもあるが、実際、アイドルがバリバリ戦い始めたらちょっとカッコいいだろう?」

 え?それってもしかして……

「私達も、戦うってこと?」

「その通り!指揮は私が取るから、大船に乗ったつもりでいろ!まず、役割分担だが……」

「いやちょっと待ってちょっと待って!それって、契約上問題があるんじゃないの?僕が被害にあったらなんちゃら〜みたいな!」

 プロデューサーは少し思案してから質問に答えた。

「その質問の答えだが、契約上問題はない。そもそも、契約の内容の確か……第十条『タレントの身の安全の確保について』では、タレントが被害にあっても、こちらが賠償責任を負う必要ない、ということになっているし。しかも今回、君たちの実力なら行けると思うんだよね」

 違うだろ。そういうことじゃあない。

「ま、そういうわけだから。じゃあ、役割分担をしよう!爆弾の位置予測はちーちゃん、ともとも。避難勧告はうら。モノノベ探しはゆうかりん、こころん。そして爆弾解除はえーちゃんと姫様だ!」

『本当にソレでいいの!?』

 珍しくハモった。しかし、私達は行くしかなかった。この事件を解決しなければ、せっかく企画したゲリラライブがおじゃんになってしまう。と、言うわけで早速行くことになった。


『んじゃ、私と千明ちゃんで爆弾の位置を予測するから、慧宙ちゃんと姫様は私達の指示する場所に行って。そして、白香はプロデューサーの指示の下一般人への避難誘導。有可ちゃんとこころちゃんは基本慧宙ちゃん達と一緒に行動して時折モノノベが居そうなところに行く。おけ?では、作戦開始!』

 今回も、疑似テレパシーを使って長距離会話を可能にしている。そして、ふと思ったのだが、時を止めれば最強じゃん!はい、ライブ再開!と、言いたかったのだが、少し不安なことがあった。それは、『永食ウロボロス』の限界のことだ。

 前―――オーディションの際に一度、時を喰らったことがあったのだが、その後、一日ほど“想像力”が使用不可になってしまった。これは恐らく、“想像力”というものを構築しているシステムが一つ壊れてしまったからなのではないだろうか、という仮説を立てた。その後、何度か実験してみたが、同じ結果だったため、システム―――『永食ウロボロス』が焼き切れ、一時的に使用が不可能になったということが明白になった。

 しかも、今は「意識の境界」とかも喰らっているので、『永食ウロボロス』に負荷をかけている状態だから余計、シャットダウンする可能性は高いだろう。

 よって、今回は時を止めることはできない。

『おっ!早速分かったかもしれない!場所はシン・シブヤ駅北口!』

「「了解!」」

 空間を喰らって瞬間移動。姫様は『激怒炎サラマンダー』で身体能力を超強化し、私のすぐ後にやってきた。

『シン・シブヤに来たけど、どこにあるの?!』

『え〜っと……改札のうちのどれか一つ!』

 適当だな!と思ったがテレパシーには乗せなかった。この疑似テレパシーを研究した結果、思念をテレパシーに乗せるか乗せないかの選択ができるようになった。地道な努力が、結果を作るのである。

 そして、私もすぐさま破壊ができるように『暴食の完全予測インテリジェンス・グーラ』を発動した。これで、どの改札にあるのかが分かる。

「姫様、右から二番目の改札!」

「応ッ!こっちはさっきから苛ついてんだよ!オラァ!」

 怒りの鉄拳が、重い拳が、機械に下される。その衝撃で、爆弾が爆発しそうになったが、私がタイミングよく『暴食ベルゼブブ』で爆発するエネルギーを喰らった。

 そうして、私達は、この強行突破で爆弾を解除しまくった。そして、その間に避難誘導組が終わり、全員で合流することになったが、ここで、モノノベが見つかったという連絡が入った。

 モノノベはシン・シブヤ駅の前の駅―――明治神宮前駅の北口に居たという。そうして、私達はすぐさま駆けつけた。


―――「来たな。勇気ある者よ。私は、モノノベ―――物部天獄。日本の消滅を望むものである!」

 開口一番、件のモノノベ―――物部天獄は、そう言った。続けて、

「さぁ、このゲームは君たちの勝ちだ!しかし、まだエクストラステージが残っている!

 この私を、倒すことだ」

 物部天獄は、私達にそう言った。

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