第12話その二 霊の戦い・第二節―――フィジカルバトル……への移動時間
『さて、オープニングセレモニーも終わったということで、ここでフェン・ミゼーアさんから一言いただきたいと思います!ミゼーアさん、このステージどうでしたか?』
『そうだな……中々に良いステージだった。しかし、ダンスのキレが少し衰えていたように感じたな。ル・リエーのところは分からないが、うちのグループのことならわかる。ここ最近、ピッタリと動きを合わせることが少なくなったからな。もう少し練習量を増やしたほうが良いかもしれない。そして、歌のピッチもズレていたところが多数あったな。このままでは……』
『良かったそうです!ありがとうございました!』
切った……!相手方の話を最後まで聞かずに切りやがったあいつ……!けど、「ダンスのキレが少し衰えていたように感じたな」は聞き捨てならない。もしかして、私達のダンスのキレが悪かったとでも言いたいのか。あいつは。実際どんな人物なのかは知らないけれども、なんか段々とムカついてきた。今からでも一発殴りたい。
『では、これから第一幕が幕を開けます!第一幕の題目は……』
だいだいだいうるさいな。もうちょっとナレーションの原稿聞きやすくする方法あったでしょうに。
『題目は、身体能力競争!フィジカルバトルです!』
うおおおおおおおおおお!とまたしても声が聞こえる。……思ったのだが、私ってそんなに運動得意だったか?いや、得意ではなかった。ましてや私、運動部じゃなくて文化部だし。それもほとんど動かないだろう部活ナンバーワンぐらいに位置する文芸部だし。しかも、生徒会の一年会計だからほとんどパソコンとにらめっこしているだけだし。
まあ、そんなんだから運動は苦手となっているわけで。私にとってはもはや種目云々よりも、相手はどうやったら負けるのか?ということが軸になっている。こういう無駄なところに自分の“想像力”を使っても良いものだろうかと悩む。
いや、何も恐れることはないさ……。落ち着け……落ち着けよ慧宙……。私の“想像力”はあらゆるものを喰らい尽くす。ならば、バレないようにするだけさ!……今がその時だ!『
え〜っと、なになに……?「今回のゲームは3つの要素で構成されている。1つ目は鬼ごっこ―――もとい速力勝負。こちらは、私は足手まといなのでちょっぴりズルするが吉。
2つ目は水泳。水泳は少しだけ泳げると総合的に判断できるので、泳げるだけの距離を泳げばよし。だが、ほんの数パーセントの確率で本当の競技水泳ではない可能性があるのでその場合は遊ぶだけ。
3つ目はリズムゲーム。リズム感というアイドルならば誰でも持っているであろう才能をどれだけ磨いてきたかということを聴衆の前で晒す儀式。形式はツイスターゲームかダンス対決。前者の場合は恐らく、ラッキースケベが発動する可能性が大。この展開を待ち望んでいるファンも多いかもしれない。後者は企業、テレビ局など社会からの反応は良いだろう。しかし、一般のファンの方々が退屈してしまう画になってしまうかもしれない。以上3つの要素を鑑みた結果、どう勝てるかといえば……
ちゃんとやれば、できるかもよ。けっぱれ〜」だと……。
意味がわからないので今回の『
『さて、では出演者の皆様は会場の方に移動してください!会場は車ですぐそこのはずです!』
ハズってなんなんだ。そう思いながら舞台裏から楽屋などが広がる廊下を抜け、玄関に着く。少し古めかしい自動ドアをくぐると、外には二台の車―――小型バスが止まっていた。
中から運転手が出てきて、私達は玄関から見て右側の小型バスに乗ることになった。ちなみにこのライブの構図のため、絶対キュグデは右側のもの、ホリセブは左側のものを使う・または出てくるという風に決まっているらしい。ここでも企画陣の謎のこだわりが見て取れる。奈落からステージに飛び出してくる演出の場所もキュグデは右側から、ホリセブは左側から出てきた。
ザザザ…ザッザザ……ガッ!という音がどこからか聞こえてきた。音の発生源―――たしか理科で音源と習った―――を探してみると、ずっと着けておくようにと言われていた片耳ヘッドセットから聞こえてきた。と、言うことはこれは誰かからの通信ということだろう。
《あーあー、聞こえてる?諸君、おはよう。……いや、ここはこんにちはと言ったほうが正しいか。オーディションの際に一回は会っていると思うが、もう一度名乗らせていただこう。私は『ティンダロス・ルルイエ・コーポレーション』会長・空海無垢美だ》
会長からの通信だった。ホリセブは知らないが、キュグデは一応私以外はこれで四回目ぐらいの会話になるが、私は過去の会長の記憶を基にすると十数回は会っていることになる。青森の家の記憶は殆どないが、初めてこのことを知ったときはとても驚いた記憶がある。それももう半年前のことだということに今は驚いている。
《では、会場の方へ移動するのだが、その前に注意事項というか何と言うかがある。今回の対決は鬼ごっこという名の速力勝負、水泳対決という名の水着時間。ファンの眼福時間だ。言っておくが今回の水着はこちらが用意しているスク水だからな。そして最後はアイドルならば誰でも持っているであろうリズム感を試すゲームだ。このリズムゲームには……ツイスターゲームとダンスで対決してもらう》
え?予想が外れた。どちらか一方だと思ったのに、どちらも採用されるとはどういうことだろう。もしや……
《ツイスターゲームはファンからのウケが良い。そしてダンス対決は企業からのウケが良いからな。どちらもやっておくに限る》
やっぱり。『
《いよいよ注意事項についてちゃんと話すことにしよう。注意事項は一つだけだ。それは、死んではならないということのみだ。この全ての種目は“想像力”の使用を許可している。それに加え、あのゲーム空間―――正式名称としては『
そして、会長は語りだした。その“想像力”の条件を。その条件とは、先程サラッと言われていた「一定以下のダメージを負う傷を瞬時に癒やす」という条件と「ゲームのステータスを現実に持ってくる」条件だ。この二つがどういうことかと言うと、「一定以下のダメージを負う傷を瞬時に癒やす」は「一定以下のダメージ」という条件があるので例えば許容量がトラックに撥ねられて崖から落ちるダメージの総合だとしたら、世界が一瞬で滅ぶほどの核兵器が爆発した際のダメージを癒すことはできない、ということだ。
“想像力”には世界を一瞬で破壊できる能力もあるかもしれない。それは、キュグデ・ホリセブどちらともの“想像力”にももしかしたら途中で覚醒して〈フェーズ〉が上がってどうあがいても絶望という様な能力が出てきたらその『
次の条件「ゲームのステータスを現実に持ってくる」というものはこれが一番死に直結しやすい。ゲームではヒットポイント―――HPが0になると死んでしまう。それが現実世界でも起こるとどうなるか。人それぞれのHPは違うので、一応死んでしまう。すると、コンティニューができるのだが、その回数も限られている。
そうして自然に死んでいくのも危惧するが、本当に危惧すべきはその特異性による副次的な災害だ。それは、生命力が強くあらゆるステータスが弱い者ほど起こりやすい現象―――残機が一向に減らず死んでは倒され、死んでは倒され……というものを繰り返す俗に言う「リスキル」というものにうんざり―――聞こえは良いが要は鬱になり、自分の意志で残機関係なく死亡する―――「ログアウト」または「萎え切り」と呼ばれる行為をすることだ。この行為を現実でやれば、間違いなく即座に死亡する。しかも、ホリセブは「神」というものに自身の忠誠を捧げているため、その神敵と勝手に認定されている私達に容赦なく苦痛を与えて殺しにかかってくるということもあり得るのだ。
まあ、最後のホリセブ関係のことは会長は話していないが。
《―――というわけだ。では、このように長々とした説明になってしまったが、これは君たちの命を守るために必要なものだ。これを胸に刻み、最適な行動を考えて動け。以上だ。ドライバーは私の信頼できる人物に任せてある》
これにて、会長の説明は終わった。というところで、私達の担当になった小柄な若いドライバーさんが話しかけてきた。
「あなた方が、私の担当するキュグデ陣営様ですね。では、こちらにお乗りください」
そう言われ、私達は小型バスに乗り込んだ。
―――……
「では、発車します!」
なんか、その時の語尾だけが異様に強かったので、もしかしたらハンドル握ると性格変わるタイプの人かな?と思ったが、全然そんなことはなくちゃんと法定速度を守った安全運転で安心した。
「申し遅れました、私、フラン・ハーラヴ・ノワールと言います。和名は黒井富蘭ですので、呼びにくければ黒、もしくは黒井とお呼びください」
フラン・ハーラヴ・ノワール……黒井富蘭……どこかで聞いたことがあるような気がするが……あっ!たしか会長が前話していた―――
「会長のお友達のフランさんですか?」
「えっ?あ、え、えぇ。そうですが……ワイ?なぜ、あなたが私のことを知っているのですか?会長―――マイフレンドはアノことを誰にも話さないつもりで居たのに」
「そのぉ……私、実は会長の―――空海無垢美の姪孫で横山慧宙と言います。よろしくお願いします」
「なるほど、あなたがマイフレンドの言っていた『我が隠されし大いなる孫娘』―――『グレート・ワンズ』ですね!会えて嬉しいです」
なぜ、私とフランさんがこうもメチャクチャ話せているかと言うと、私はいつも母さんとか父さんに送ってもらって行っているとき、助手席に座るので、今回も我儘言って助手席にしてもらったのだ。今回もと言うと何度も会っているようだが、実際、会長の話でしか出てきていないので、私と彼女は初対面である。
「そういえば、アノことを話さないつもりで居たってどういうことです?会長は、私には話してくれましたけど」
「……気が重くなる話ですよ。皆様のいる前で、本当に聞くのですか?」
「ちょっと聞かせてほしいですね。大丈夫ですよ、あいつら絶対人の話聞かないので」
これは私が数カ月間一緒に過ごしてみて感じた唯一無二、絶対正しい真理である。恐らく、あいつらの身体の数十パーセントはこの「人の話聞かない」で構成されているのではないかと言うほど、私にとってそう感じた。まあ、私も大概だが。
「そうですねぇ……前提条件として、あの時のことの話を聞いた、という体で話を進めさせていただきます」
「あのとき……あぁ、“想像力”の暴走事件ですか……六十三年前って言うことは、あなたもう七十七歳ってことですか?!」
「まあ、そんなことはどうでもいいです。……あれは、あの事件が起こってから、わずか数週間後のことでしたね」
そう言って、人の話も聞かずに、この人も話を始めたのだった。
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