第12話その一 霊の戦い・第一節―――熱狂的信者

『さぁ!やってまいりました。『第一次信徒集合大会ファイルナンバー・ワンバーサス第二次偶像崇拝大会セカンドステージ』!こちら、実況のキュグデプロデューサー空海久猗でございます!』

『そして、私は、解説のホーリー・セブン所属事務所社長フェン・ミゼーアだ。よろしく』

 え?解説がミゼーアだって?もしかして、これって結構大掛かりなステージになるのでは?

「プロデューサー、張り切ってるな。何時もより声が大きい」

「全くだよ。耳がキーンとなるから、あまり大きな声は出さないでもらいたいのだけど」

 ステージの前だというのに、全く良くそのような元気が出てくるものだと、まだ年端も行っていないが、そう思った。

 コンコン。

 楽屋の扉を叩く音が聞こえた。その音は優しくノックされているので、スタッフの類ではなさそうだ。

「僕が出る……はい、どちら様……?」


「やぁあ。こんにちは、私の生徒に会いに来たのだが……横山君と浦色君居るかい?」

「あ、は、はい。居ます……慧宙、白香〜お客さんだよ〜ラヴクラフト先生」

「「は?」」

 驚くのも無理はない。というか実際驚く。何故、担任の先生が自分の仕事場に来ているのかとなると、皆緊張するだろう。普通。

「やあ、横山君に浦色君。お仕事頑張ってるかい?無理はしてはいけない。しかも、君たちが今日出るステージには、有名な天使の“想像力”を持つものが数多く出る。空海君ならば、その一歩手前ぐらいのことはしてくると思っていたが、まさか、ここまでするとは思っていなかった。まあ、精々頑張りたまえよ。生徒諸君」

 ラヴクラフト先生は、それだけ告げると帰っていった。何をしたかったのかは、少しわからない。しかし、まさか灯並の強力な“想像力”を持つ者たちが大勢出るということか……。とてもではないが、命をかけないといけない気がする。

「ふ〜……中々、ラヴクラフト先生って怖いなぁ……。なんというか……その……ゾッとするような雰囲気というか……」

 それはそう。何故ならば、あのラヴクラフト先生は、学校の中で最も不気味な物体と言ってもいいだろう。あの眼に見つめられれば、とてもではないが、気味が悪く吐き気がすることもあるかもしれない。とても、不愉快極まりない。

「やぁ、諸君!さっき、廊下で不気味なジェントルマンとすれ違ったのだけど、誰か心当たりはあるか?」

……このプロデュサー、何でもいけるな。まさか、あのラヴクラフト先生にすれ違ったというだけの認識で終わるとは。もう少し、なんだあの化け物は、とか考えなかったのか?初日、私が会ったときはそう考えた。

「ああ……あれはな、プロデューサー。ミスター・ラヴラクラフトだ。江戸学の名物教師で、なんでも百年以上生きているみたいだぞ」

「ふ〜ん……まぁ、そんなことより今回のライブのルールを説明しよう」

「ルール?」

「そう。今回のライブは勝負だ。実質、『ル・リエー』と『ティンダロス』の抗争といってもいいだろう」

 いいや、普通にアイドル同士のなんか人気争いみたいなやつでは?と言いかけたが、ちょっとこの空気、嫌いじゃない。

「そして、勝負にはルールが必要だ。だから、ルールを設定することにした。

 まず一つ、勝敗はファン投票の末、決めること。勝利条件としてはこれぐらい。あとはけが人が出ないようにするためのルールだ。

 二つ、結界を張っているが、念のため全力は出さないこと。武闘会だからといって、怪我してアイドルやめるなんてことになったら大変だからね」

 ん?武闘会?聞いてない。そんなの、聞いてない!もしかして……想像上武具イマジナリーウェポンを渡したのってその為?

「言っていなかったが、今回は三部制で、一部が運動神経対決。二部が武闘会、三部がライブだ。三日間あるから、頑張って。そして、結界と言ったけど、あれは実質結界だからね。受付のお姉さんの想像力が範囲内にいる人物の怪我を一定の割合を超えない限り、永久に治し続けるというものなんだけど、それと並行して掃除のおじちゃんの想像力―――指定のステータスを表示させるという能力を発動することで、疑似対戦ゲーム空間を作り出すことに成功したのさ!」

 無駄な発想力だ!そんなにファンは私達の殴り合いを待ち望んでいるのか?

「と、言うわけでこれからオープニングセレモニーがあるから、みんな、早く準備済ませといて」

 何が「と、いうわけで」なのかは分からないが、今回もまあ、我々に拒否権はないだろうなぁと思いながら、出された指示に従い素直に準備した。


『……あーあーマイクチェエエエエック!では、ハローエブリワン!おまたせしました!これから、オープニングセレモニーを開始します!』

 うおおおおおおおおおお!と、叫ぶファンたち。この熱量が、私達に直接当てられることがあれば、その時私は本当に立っていられるだろうか。

『では、まずはこちらをご覧ください!』

 ウィインという音を立ててモニターが天井から降りてきた。数秒ほど待つと、パッと明かりがつき映像が表示される。その映像は、私達が事前に撮影した紹介のものだ。


―――『皆さん、こんにちは!ザ・キュートアンドグレートデビルズです!今回のパフォーマンス勝負、負けないように頑張ります!』

 そう言うのは、我らが裏表の温度差やばいよね代表兼かわいいアンドビューティーアンド表舞台代表浦色である。

『皆のもの、ごきげんよう!ホーリー・セブンだ。我々は、今回の勝負、絶対に負ける気はない。全てを我々に委ね、勝利を確信すればよい!』

 次に言うのは恐らくホーリー・セブンのナンバー2ポジションの釉累ヱリルユウルイ エリルである。彼女も、集めた情報によれば、私達の浦色みたいな役割になっており、その高圧的で高飛車な態度、そして何よりもあのクールビューティーという言葉が相応しいようなどこか儚げで冷たさを感じるような容姿が人気らしい。そのおかげか、最近ではモデルデビューや女優デビューを果たし、マルチタレントとして活動しているそうだ。

 そして、場面は暗転し、他の映像が投影される。

『皆様、こんにちは。ザ・キュートアンドグレートデビルズとホーリー・セブン所属事務所運営会社会長の空海無垢美です。この度は、キュグデとホリセブの対決ライブにご入場くださり、ありがとうございます。では、皆様、私から一つ。今日は、最っっっっっっっっっっっっっっっっっっ高に盛り上がっていきましょう!』


 またしても、うおおおおおおおおおお!という声が聞こえる。そして、またしても暗転。私達の足場が上昇し、強烈なGがかかる。

 そうして見えてきたのは十四色のサイリウムがまばらに散らばった領域が広がっている景色だ。この様な景色を見るのは、約数カ月ぶりか。あの景色は決して忘れることはないだろう。

 その後、歌い始める。今回はまだ勝負開始していないのでキュグデとホリセブ―――ホーリー・セブンの略称―――の共同歌唱が始まる。

「―――♪〜〜〜〜♪!」

「―――♪_____♪?」

「――〜〜〜〜〜♪」

「____________♪〜〜〜〜〜♪!!!」


………―――

「ようこそ皆の衆!私達は、先程の紹介にもあった通りザ・キュートアンドグレートデビルズだ。そして、私がそのリーダーを務める朱雀坂有可だ!」

「そして、私がホーリー・セブンのリーダーを務めます、上地三春です!皆様の期待に応えられるように、今回、ホーリー・セブン一同、全力でこのライブ勝負、勝ちに行きます!」

 うおおおおおおおおおお!だの、キタ――――――!だのそんな言葉が叫ばれている。そんな中、結構通る大きな声がその場を静寂に戻す。

『今歌った曲は廱埀作詞作曲の今回のライブのためだけに書き下ろした『非ガウス幾何学非対称模様』でした!皆様、盛大な拍手をお願いします!』

 拍手喝采。このドームをそのものを覆い尽くすような音量で響く多種多様な音色。それは雑音に思えたが、意外とそうではなく、互いに調和しあって一つの和音のようになっていた。

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