第11話 想像上武具とは何か

「さて、第一次信徒集合大会ファイルナンバー・ワン第二次偶像崇拝大会セカンドステージの日程も決まった。と、言うわけで、レッスンに入っていくのだけれど……その前に君たちに渡しておくべきものがある」

 そうプロデューサーに言われ、連れてこられたのは、事務所の倉庫だった。

「ここで何をするおつもりで?」

「決まっているだろう。渡すんだよ、これらを」

 プロデューサーの手には一対の剣が握られていた。『暴食の完全予測インテリジェンス・グーラ』を使い、予想を立ててみたが、私は知らないものなのか、情報が全くと言っていいほど出てこない。

 私が知らないものといえば、殆、機械系である。私は、自他ともに認める所謂機械音痴で、何もしていないのにパソコンがフリーズするということも多々ある。

 しかし、これは、所謂科学で作られた機械とは何か違う気がした。それは、もう、なんか、めっちゃ違う感じがした。うん。

「初めて見るかもしれないが、これは想像上武具イマジナリーウェポンと言い、その名の通り“想像力”を宿す武器だ」

 プロデューサーの説明によると、想像上武具イマジナリーウェポンは以下のようなものらしい。

 まず、想像上武具イマジナリーウェポンはそれ専門の職人がいる。その者たちを化冶師かじしと言う。

 化冶師が武器を作っている最中に“想像力”を垂れ流しにしていると、その出来上がった武器が“想像力”を纏ってできる。しかも、化冶師が持っている“想像力”とは違う“想像力”を付与されることもあるとか。

 しかも、素材によって強さも違う。

 例えば、ただの木から作ったならそれはどんなに化冶師の腕が良くても素人が“想像力”を垂れ流しにして木の枝を折って振り回すのと同義。しかし、その木の中でも樹齢が数百年の木となると、その想像上武具イマジナリーウェポンは山を割りかねない程の強さとなるのだ。

 そして、その想像上武具イマジナリーウェポンの強さの具合によって等級と被害予想がつけられている。

 等級は全部で八つ。

 五級、四級、三級、準ニ級、二級、準一級、一級、そして最上級の『獄門』。

 被害予想は四段階。

 ワン…被害が少ない又はほぼ無いと予想される、アナザー…比較的被害は少ない、アザー…危険。取り扱いには注意を、アウトサイド…使い方を誤ればこの世界自体が消滅したり、書き換わったりする危険性がある。

「そして、ここにある想像上武具イマジナリーウェポンは全て一級のラインを突破して、なおかつ被害予想はワンからアナザー。これは非常に珍しい物でね、大体の一級はアザーなんだ。んで、『獄門』の中の一握りがアウトサイド」

 プロデューサーは手に持った双剣を振り回しながら話した。危ない。

「そういえば、その双剣は何ですか?さっきから持ってますけど」

「ああ、これかい?これはね、会長から貰ったもので“表裏剣”陰陽ユン・オリアング―――『獄門・アザー』だよ。これは凄いのだよ。何がかというと斬った物の性質を“順刃剣”ホンで斬ると強制的に陽にし、“逆刃剣”ランで叩くと強制的に陰にするという能力を持つのだよ!」

 尚更危ない。あれ当たったらどうなるの?死ぬんじゃないの?

「まぁ、好きなのを選び給えよ。諸君」

 といって選ばせたので私も探した。

「お!私はこれにしよう!この未来の王たる私に相応しい武器だ!美術品としての価値も高い、なるほどさすが私!選ぶもの全てが私に導かれるようにしてこちらに来る!」

「あ、それは……」

「うん?」

 ドカン!

 瞬間、大きな爆発音が響き渡る。とともに眩しい閃光が放たれる。

「大丈夫〜?有可?」

「クッ……この未来の王たる私が……道具に裏切られるなど、あってはならぬ!何なんだあれは!ちゃんと説明しろ!」

「あぁ……あれはね……持ち主を選ぶんだよ。想像上武具イマジナリーウェポンは稀に自我を持ってね―――それでもまだ喋るとかはしないけど―――人を選ぶのさ。そしてあれは“因果刀”森羅万象サンスカーラ―――『獄門・アウトサイド』。一番危険……性質はその斬った物の起源となるものを過去に遡ってまで絶対に斬るという刀だよ。会長が予測した結果がこれさ。制御しないと宇宙の根源たるビッグバンまで破壊しかねないからね……だけど、そこは問題ない。そうならないようにそれには“想像力”『逆説・肉親殺しペアレントキラー』を付与した制御装置が搭載されているからね」

 親殺しのパラドックス―――それはタイムパラドックスを解決する意外なところからの答え。親を殺してもそうすると自分は生まれてこないから親は生きている。それから自分はまた生まれる―――という無限ループを繰り返すという理論。そして、恐らく、『逆説・肉親殺しペアレントキラー』の“想像力”を持っているということは、何かを斬ってもそれを瞬時に過去から治すという能力を持っているのではないだろうか―――それも『獄門・アウトサイド』なのではないだろうか?

「お、良いのがある。これは何?プロデューサー」

「それは“狂乱槍”怒髪天ユニコーン―――『一級・アナザー』。その鋭く尖った先端と性質上から“憤怒の器”とも呼ばれている。君に相応しいね。そして、この想像上武具イマジナリーウェポンの性質は刺したものから“怒り”以外の感情を浄化するという性質だ」

 どれもこれもヤバい……というか、恐らくこの“狂乱槍”怒髪天ユニコーンの作者は紛れもなく輝夜と同じ能力を持っていたはずだ。予想するに……『神獣・激怒ユニコーン』みたいな感じだろうか。何にしても奇妙な因果だ。

 と、他の人の選択を見ていたが、私にも気になるものができた。それは、一振りのナイフである。しかし、何か大いなる力が隠されている気がしてならない―――いや、実際そうだろう―――。そして、私は、そのナイフを手に取りプロデューサーに聞いてみた。

「プロデューサー、これはなんです?」

「ん〜それはねぇ……何だったけなぁ……あぁ!そうだ、思い出した。そいつは“呪啜剃刀”妖魔封印刀・蠅バアル=ゼブブ―――『獄門・ワン』。そいつは本物の想像上武具イマジナリーウェポン―――想像上の武器だ。なんでも会長によるとそいつは遥か遠い過去もしくは未来からやってきた物らしい。しかも、素材が人間の死体―――いや、人間の身体だとか。性質は吸収。刺したものや斬ったものから生命エネルギーと能力を吸収し、干からびた死体にしてしまう能力だ……まさに呪物だね」

「えっ……コワ……。けど、それだと被害予想のワンはおかしくないですか?ヤバいぐらい被害出てますよ、これ。これもアウトサイドなんじゃないんですか?」

「違うのだよ。これはあくまで被害範囲の予想だ。ワンは殆が使用者個人、あるいは被害者自身のみだ。だけど、アウトサイドは違う。あれは全宇宙を巻き込んだ超自然災害と言ってもいいだろう。だから、あれだけ厳重に封印されているというか、保管されているのさ。さっきの“因果刀”森羅万象サンスカーラも同じ『獄門・アウトサイド』の等級の“想像力装置”『逆説・肉親殺しペアレントキラー』に制御されていただろう?あれは『獄門』、あるいはアウトサイドレベルになるとそれと同じ強さの拘束具によって拘束する必要がある、ということさ」

 なるほど、ワンとアウトサイドでは危険性は同じでも、効果範囲によって格付けされているということか。

「まぁ、これを君たちが扱えるかどうかはまだわからないけれどね」

「それってどういう……?」


「こういうことだ」

 私達が連れてこられたのはお世話になった彼処―――区役所区民想像力課だった。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょい待って。まさか、また、あの“暗黒ダークネス・魔境フィールド(笑)”に入るというのか?あそこは区民……というか国民全員が嫌がる場所だぞ」

「待て、違う。君たちが入るのはここじゃない……いや、ここなんだが部署が違う」

「へ?」

「まず、区役所区民想像力課と一口に言っても部署がある。君たちが行ったのはその中の一つ―――区民想像力名称部だ。あそこは誰も行きたがらないが、今回行く部署―――区民想像力総合管理署はまともだ。あそこよりも遥かに常識がある」

 良かった……本当に良かった……。

「さぁ、行くぞ貴様ら!乗り込むぞぉぉ!」

『うるさい』

 有可って、結構リーダーシップがあると言うか、人を惹きつけるのがうまいけれど、うるさいんだよなぁ。


―――モニターに向かって座る一人の少女。その眼は真っ直ぐモニターに向けられ、指先は絶え間なくキーボードを叩く。

「……えーっと次の業務は……っと……うわっ、査定か……嫌だなぁ」

 業務が終わった瞬間から次の業務のことを考えるとは、なんとも健気なことだろう。しかし、その手に握られた一枚の紙を目にした途端、やる気が無くなったようだ。

「失礼します。今日の査定対象者―――株式会社『ル・リエー』の皆様が参られました。至急、応接間へ―――理沙さん」

「ああ、今行くよ。ありがとう、事務員さん」

「お気をつけて」

(はぁ……『ル・リエー』か……。まさかあいつが来るとは思えないな……何を申請しに来たのか、少しだけワクワクするんだけど)

 彼女―――理沙は、応接間に向けて歩を進め始めた。


―――……気まずい。とても気まずい。

 何故、あいつ―――理沙がこんなところにいるのさ!分からない……いや、ここは下らないことだけど『暴食の完全予測インテリジェンス・グーラ』を使ってみるか?いや、無駄かもしれない。

「えー……では、本日はよろしくお願いします。株式会社『ル・リエー』の皆様。どうぞ、緊張なさらず、リラックスしていてください。……本日の要件は次回のライブの想像上武具イマジナリーウェポン使用許可ですね。では、少し審査させていただきますので、触らせてもらいます」

 そう言うと、理沙は体に触れ始めた。

 一人目は、有可ことゆうかりん―――プロデューサーが勝手に決めた―――だった。

「では……“想像力”『占術・超運命札ウェイト・タロット―――F2』―――『超高精度近未来予知』。……これは……なるほど、使う程の危機がありますね。本当なら止めにして欲しいのですけど……まあ、仕方がありません。想像上武具イマジナリーウェポンの使用を許可します。ついでに、予知可能範囲から隣のお二方―――輝夜さんとこころさんも使用を許可します」

「やったな!これも私の力!感謝しろ、ふたりとも!」

「「は〜い」」

 取り敢えずゆうかりんと姫様、こころんは合格と。

「それでは……次の方。……やはり、ここ全員そうなのかな……良いでしょう。全員を許可します」

「え?」

「本当にそれで良いの?」

「良いんです。それと、慧宙。必ず帰ってこい。今回は、本当に危険なステージになる」

「了解。理沙」

 私達が、互いを心配?しあっているころ、皆は何かこっちを向いて驚いていた。

「どうしたの?私の顔になにかついてる?」

「いや〜……違うのだが」

「その〜二人ってどんな関係?」

「「ただの双子」」

 え〜〜!と驚かれた。そこまで驚くことじゃないでしょうに。それよりも、私、理沙の“想像力”が〈フェーズ2〉に上がっているの知らなかったんだけど。なにこれ、なんか血統とかで進化していく系?

 そんなこんなで、許可申請は、終わったのだった。


―――帰り道、車の中でプロデューサーに聞かれた。

「そういえば、君達、想像上武具イマジナリーウェポンは何にしたんだい?」

「私は、“狂乱槍”怒髪天ユニコーンにした。これ結構使い勝手が良い。訓練場で試したが、中々に良い掴み心地と刺しやすさだった」

「僕は“裁判盾”知恵人形劇団グラン・ギニョールだね。守りもできるし攻めもできる。良いねぇ。燃えてきた!」

「そうか。他の子はもう聞いたし、君たちだけだったんだよ。聞いてなかったの」

 そう言って、運転を再開したのだった。

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