第10話・無限級数、無限回帰、全てはこの無限の神に
―――「やってやろう。今度こそ、すべてを終わらせる。私が責任を取って」
《やってみせよ。汝、有言実行せよ。虚証は神の理に反する》
私―――トキは、この全てを終わらせるために、まずはこの天使モドキを排除し、慧宙を守ると決めた。
そうと決まれば、早速の一発目で仕留める。それが、戦闘の心得だ。
「“想像力”―――『
―――無限一式『零分の壱・限りなく大きい実数』。
これを発動する。そうすると、天使モドキが苦しみだした。無論、慧宙には被害が及ばないように調節してある。
《ナ、何だ?頭が……割れる……!全てが、上書きされていく……⁉》
これは、対象範囲にいるすべての生命体の思考体に絶え間なく実数を送っていくという能力だ。これで実数を送り込んでいくと、処理領域の限られた生命は考えることを放棄し、発狂する。
しかし、この天使モドキは、神を信仰するという心の拠り所を得たことと、元から持っている強靭な精神力で無限一式を拒絶した。
《フーッ、フーッ……なかなかやる。しかし、神はそのようなことには断じて屈しない。それは、神からの加護を受けた私達天使も同じ。全ては主の神意のままに》
「ならば、これは?」
―――無限二式『無限小・無視できるほど小さきもの』
天使モドキはキョロキョロと周りを見渡しだした。恐らく、周りのものが全て見えず、感じれず、嗅げず、聞こえず、空気の味すらもわからないのだろう。
それも当然。この無限二式は対象範囲にいるすべての生命体の五感を無限に鈍らせる。なので、すべてが見えず、ものに触れても触れたかどうかさえわからず、異臭が漂っていてもわからない。金切り声がしても、口の中にゲロまずい料理が入っても、わからない。すべてが理解できない状態に陥るのだ。
《見えぬ、聞こえぬ……誰かいないの?》
少女としての心を取り戻してきている……これは良い傾向だ。恐らく、この神というのも“想像力”の洗脳による産物で、他にも天使モドキがいるということか……。
恐らく、あとは六柱―――“傲慢”ルシファーの大罪と対となる“正義”ミカエル、“憤怒”サタンの大罪と対となる“慈悲”ラファエル、“嫉妬”レヴィアタンの大罪と対となる“忍耐”ガブリエル、“怠惰”ヴェルフェゴールと対となる“勤勉”メタトロン、“強欲”マモンと対となる“救恤”ウリエル、そして“色欲”アスモデウスと対となる“純潔”ザドギエル―――残っている。
さて、ここで洗脳から解放してくれれば一番いいのだけれど……それは少し無理そうだな。今回の場合、長い時間洗脳され続けているから、解くにはそれと同等の期間治療しなければならない。しかし、これを治療と呼んでも良いものかと思うのだがそれはさておき。これを浴び続ければいつかは精神が崩壊する。
ならば……
「すまないね。私は、今ここで、君を殺さなければならない。私の―――いや、彼女たちの幸せのために。こればっかりはどうしようもならない。世界単位のお話だから」
―――無限三式通常数式『無限級数・収束』……
「待って!」
無限級数を実体化したこれで収束させようと思っていたのだが、慧宙が介入してきた。
―――って、ちょっとそれはヤバい!
「待って!トキさん、やめて!それ以上はヤバい!事件になる!」
一応、この前の『ティンダロスの猟犬』とは違い、戸籍上もいる大和民主主義国の一国民として扱われるのだから、ここでいなくなれば絶対事件になること間違いなしであり、そうなると近くにいた私が犯人として扱われる気がする。
大和には『想像力悪用犯罪量刑法』というものがあり、その中にこのような記載がある。
『大和国内で、想像力を悪用した犯罪は通常の手段を用いた犯罪より重く罰を下さなければならない。』
要するに、“想像力”を使って殺人をすると、即死刑なのだ。
「どうしたのさ?こいつを殺さないと、君が死ぬよ。それでもいいの?」
「いや、そうじゃなくて!ここで殺すと間違いなく事件が起きるんですよ!そうすると時間停止空間での殺人は恐らく『想像力悪用犯罪量刑法』で間違いなく死刑にされるんです!」
「それは困るなあ。私としても、君たちには死んでほしくないわけだし」
「でしょ?だから、戸籍のある人物を殺すのはやめてください。トキさん」
「トキっていうのは仮名なんだけどなあ……まあ、良いか。検証はできたし。それじゃあ、こいつを解除してそのうちに逃げなさい。恐らく思考体の処理限界で反動が来て数分は動けないはずだから」
そう言って、トキさんはトンズラした。そして、私もトンズラした。しかも、結構な速度で。そうしないと、なんか、後ろから刺されそうだったから。
そこで、私は思った。
別に走らなくてもいいのではないか?と。
早速準備。『
早速家に帰ることにしよう。ここは早くずらかるぜ。
―――あの後、何事もなく家に帰って、飯を食って寝た。その日は結構疲れたから―――どのくらい疲れたかと言うと、シャトルラン本気で走ったぐらいは疲れた―――。
しかし、その日以来、灯は学校に来なくなった。理由としては、突然精神性の発作に襲われたため、入院するとのことだそうだ……が、私は見てしまった。彼女がホントは入院していないということを。
その日、何気なくテレビの5チャンネルでやっている音楽番組を見ていると、見慣れないグループの名前が出てきた。そのグループの名前を『ホーリー・セブン』という。
そのグループは天使をモチーフにしたグループで、この前天使絡みの事件にあった私には最悪のタイミングで来たグループだったのだが、更に最悪なことが起きた。
なんと、その中に灯と思しき人物を見つけたのだ。しかも、精神異常の類の症状は見られず、平然と歌って踊っていた。
そして、なんと、あろうことかホーリー・セブンのリーダー―――『
《良いですか!ザ・キュート・アンド・グレート・デビルズの皆さん!あなた達に、新世代アイドルとして、私達は、戦いを申し込みます!》
この宣言に会場が沸いたが、私達にとってはとても迷惑な話だ。そして、その後改めてルールが発表され、今度あちらもライブを開催するらしいので、私達にも参加してもらい、『
これに事務所が応じてくれるかな……?
「その勝負、受けて立つとも!」
……要するに?
「事務所としては、交流も兼ねてそのイベントの開催を許可しよう!相手はまたしてもティンダロスか……」
「え?ちょっと?やるの?ほんとに?」
「やるに決まってるだろう!相手はティンダロス!今回も勝つ!」
「ええ……本当にやるの……?」
「私も賛成だ!あのときの恥ずべきこと―――私達を襲撃したこと―――を後悔させてやらなければ」
……やはり、みんなやる気なのか……
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