第6話・大罪と学校風景
私は更なる説明を求めて、会長の所へ向かっていった。
「無垢美会長!終わりました!」
私は報告した。報告と言っても報告らしい報告ではない。ただ一言言っただけである。
「分かった。では、全員をここに呼んできてくれ。」
と言われたので、またカラオケ室に戻ることにした。結構距離があるのだが。
そして、またカラオケ室に来た。
「どうでした?何か情報ありました?まぁ、十中八九ないと思いますけど。」
「うっ!なんで読めるのさ!うん、まぁ、簡潔に言うとそういう事だった。んで、全員呼んで来いとの事だった。」
「なるほど、ご苦労だった大食い娘。おい!貴様ら!行くぞ!!あのムカつくロリBBAが呼んでいるぞ!!」
そして、
「ほう。誰がムカつくロリBBAだって?」
そこに現れるはムカつくロリBBAもとい会長もとい空海無垢美だった。目には深すぎる闇が灯っている。
そして、急に現れた無垢美に驚き、そして冷たく地獄の底から響く様な声にビビった金髪の少女――もとい朱雀坂有可は「ヒッ!!」と喉から出た高音が結構うるさくて耳を塞ぐ。
「あと、えーちゃんの事を大食い娘だとか言ってたな。許さんぞこの若造が。」
「待って!やめて!えーちゃんって呼ばないで!仮にもメンバーの前なのに!」
私は羞恥心のあまり叫んでしまった。恐らくこのことは秘密にしておいた方が良かったと思ったのだが。
「待ってください。僕...私はなんで無垢美会長が横山君の事を”えーちゃん”と呼んでいるのか気になります。」
ほらぁ、こんな風に勘のいいガキがいるんだよ。
しかし私の懸念は次の瞬間に弾け飛ぶことになる。
「ああ、それは私とえーちゃんが大叔母と姪孫の関係にあるからだ!!」
言っちゃったーー!!あと、えーちゃんって呼ばないで!
しかし、
「大叔母?」
「めいて...何?」
「要するに何?」
「要はなんかすごいって事ね!妬ましい!!」
「zzz...」
と何も分かっていない、または分かろうとしない奴しかいなかった。
ただ、彼女を除いては。
「なだって?!それは本当?!要するに、横山君と無垢美会長は血縁関係にあるという事か!?なぜそれを自己紹介の際に言わなかったか!」
「いや、言ったらめんどくさくなると思ったから。だって、君みたいな勘のいい奴がいるから。」
まぁ、これが全てなのだよ。
「まぁ、君達。今はそんなことはどうでもいいのだよ。これから君達がアイドルをやるためには欠かせないものを決める。」
な、なにを決めると言うんだ?
「それは...」
ゴクリ(固唾を飲む音)...
「グループネームだ。」
「「「「「「「グループネーム?」」」」」」」
グループネーム。要するにアイドルとしての集団の名前を決めるという事。
確か母さんのグループネームが『グリモワールズ』だった。
と言う事はあれのような名前を付けなければならないのか?
非常にセンスが問われる内容である。
しかし、そこで一番最初に発言したのはあの勘のいい奴だった。
「なるほど。グループネームですか。となると、私達に共通する内容をグループネームに設定するのはどうでしょうか?」
なるほど、となると私たちに共通するのは想像力の中に全員が悪魔の名前を入れられているという事だろうか。
「それじゃあ共通点は私達の想像力の中には悪魔が隠れているという事でそこから連想できる名前にしない?」
「ふむ。爆しょk...慧宙にしてはいいアイデアではないか。では、千明。そこから名前を出せ。」
今私の事爆食娘って言おうとしたよな。こいつ。
そして、千明は数秒思考した後、発言した。
「では、私達の想像力の中には『七つの大罪』の悪魔の名前が入っています。と言う事は、それでいいではないか、と言う事ではないです。安直な名前は逆に世の中に溢れています。ではどうすればいいか。簡単です。少し捻ればいいのです。」
「なるほど。だから何なのだ?」
「よく分からないわ!!妬ましい!!」
私にも何が何だか分からない。だが、捻るという事は英語訳するとかそういう事だろう。
「と言う事は英語訳するとか?」
「はい。そういう事です。しかし、英語訳すると『Seven deadly sins』ですけど、それだと『七つの死に至る罪』と言う訳になるので物騒です。一応アイドルなのでそういうのは配慮しなければなりません。そして、僕が考えたのは『The cute and great seven devils』です。」
『The cute and great seven devils』。日本語訳すると、『可愛く、偉大なる七人の悪魔』である。これだと『七つの死に至る罪』よりかはマイルドになっているかもしれない。
「うん。良いと思う。」
「なるほど。日本語訳すると『可愛く、偉大なる七人の悪魔』と言うことになるな。我々の事を表しているような言葉ではないか。良いだろう。採用だ。」
「へぇ、アンタにしては良い言葉じゃない。良いわよ。」
「良いアイデアだ。私としても文句はない。」
「なんでそんなこと思いつくのよ!!妬ましい!!今回ばかりは褒めてやるけど、今度やったら呪うわよ!!」
「zzz...ん、良いと思う。」
私は、反射的に右を向いた。
そこにはちゃんと座っている――寝っ転がっていない――彼女――寝上智香がいた。
「なに?私の顔に何かついてる?」
「いや、そうじゃなくて...起きてる?」
「うん。起きてるよ。あ、なるほど。自己紹介がまだってことね。私の名前は寝上智香。想像力は『化身・怠惰(ベルフェゴール)――F2』。主な能力は『怠惰(ベルフェゴル)』と『永眠竜(ベヒーモス)』。『怠惰(ベルフェゴル)』はかけた相手を怠惰にする能力。『永眠竜(ベヒーモス)』は睡眠時間に比例して知能が上がる能力。だから睡眠時間が長いの。」
なるほど、睡眠時間が長いのはそういう理由があったからなのか。
「そうなんだ。よろしく智香。」
「ん。こちらこそよろしく慧宙ちゃん。」
ちゃ、ちゃん付け!初対面では結構難しい高等テクニックを一瞬で!!
「あ、お前起きてたのか。知らなかった。」
「ああ、姫様か。おはよ。」
「姫様って言うな!!私はそんなにそのあだ名好きじゃないんだよ。」
姫様。なるほど、『竹取物語』の『かぐや姫』にかけているという事だな。
「よし。皆決まったようだな。ならばこちらとしては『The cute and great devils』として登録しておく。スケジュールはこちらで後日配布する。分からないことがあれば久猗君に聞いてくれ。」
「はい!みんな!何か困ったら何でも聞きな!恋愛絡みから自殺まで何でも話してね!!」
さすがに自殺は...大変なニュースになる。
「と、言う訳で今日は解散だ。皆、明日も学校だ。早く寝るように。」
終わりました。長いようで短かった約1時間。
私は他の人より少し遅れて出ようとした。
その瞬間。
「ああ、そうだ。えーちゃん。少し、アドバイスをしよう。」
「ん、何?無垢美さん?」
「今度、デビューライブをするんだが、そこでは気を抜くな。この『ル・リエー』の姉妹事務所『ティンダロス』の襲撃に備えろ。あいつらは『ティンダロスの猟犬』と呼ばれる暗殺部隊を雇っている。」
ん??暗殺部隊?『ティンダロスの猟犬』??
「要するに、お前たちはライブ中はどこからでも襲撃を受ける状況であると、その事を胸に刻んでおけ。」
...なんかとんでもないことになった。
―――そして、時は飛び、翌日五月十五日。江戸学にて。
ここで江戸学――特別私立江戸川中高一貫学園について解説しよう。
江戸川、とついているが実際は江戸川区にあるわけではなく理事長の想像力で作り出された異空間――通称『モルグ街』の中にある。
そして、理事長は数々の事件を解決してきた伝説の探偵、もとい探偵事務所運営者『エドガー・アラン・ポー』である。
そして、校長はその助手であり、『エドガー・アラン・ポー』の名を継ぐ者『江戸川乱歩』である。
ちなみに探偵事務所の名前は『Dream of Dream』である。
そして、私はこの江戸学の高等部一年四組である。
この学校は学力でクラスが分かれる。
私はその最底辺の四組である。
このクラスの人はあまり覚えていない。
私は窓際の席で窓の外を見ている一人の少女を見つめていた。
その少女の名は――
「...何見てんのよ。見世物じゃないっての。」
浦色白香である。
「いや、お前もこの学校なんだーって。」
「何だ、そんな事か。よく言われるわ。」
そして、彼女はまた窓の外を見始めた。
正直キュグデ――The cute and great devilsの略――メンバー全員が江戸学に入っていたとは思っていなかった。
話は変わるが、この学校には他の学校と同じように七不思議と言う物がある。
そして、その中の一つが私のクラスにいるのだ。
それが、
「...はい。授業始めます。」
このやつれた男の教師――文学教師であり、外国語教師であり、私のクラスの担任『H・P・ラヴクラフト』先生である。
そして彼は黒板に文字を書き始めた。
カッカッカッと妙に心地いい音が聞こえてくるが、黒板に書かれいている文字は、
【ドグラ・マグラ 夢野久作】
である。
今の時期は他の学校では太宰治だとか芥川龍之介だとかやっているが、この先生は狂っているのでドグラ・マグラをやっている。
全然内容は頭に入ってこない。
「えーでは、今日は24番だから...横山君。最初の書き出しを言いなさい。」
えー、書き出しはっと。
「では、行きます。【胎児よ、胎児よ、何故踊る。母親の心が分かって恐ろしいのか。】」
「はい。そうです。今日はこの書き出し――【胎児の夢】について考察しましょう。」
今更だが、この学校の七不思議の一つ――『ラヴクラフトの年齢』について話そう。
『ラヴクラフトの年齢』は、このラヴクラフト先生の年齢は100歳を超えるという物だ。
他にある七不思議は『モルグ街の殺人――この『モルグ街』では定期的に殺人が起こる』、
『完全犯罪――ここで起きた殺人事件は全て完全犯罪として迷宮入りになる』、『ナイアルラットホテプ――午後七時を過ぎると学園内に
まぁ、そんなどうでもいい話を考えている間にもこの狂気じみた授業の様な何かは着々と進んでいった。
しかし、ここからは狂気じみた授業の様な何かでも普通起こらないことである。
『パァン!!』
そう。よく分からないがどこからか銃声が聞こえたのだ。
――銃声?
「きゃぁ!!」
「うわっ!!」
まぁ、そこら辺から案の定悲鳴が聞こえてくる訳で。
「...皆さん、落ち着いてください。授業を続けます。」
そして、ここに気の狂っている妙に落ち着いている人が一人。
「...まぁ、落ち着かないですよね。では、私が行ってきます。恐らくこれは神話生物の類の想像力を持つ犯人――いや、複数犯の犯行ですね。では。」
そう言うと、ラヴクラフト先生は行ってしまった。
「本当にあの人だけで大丈夫かな?」
「いや、大丈夫だろ。なんたってあのラヴクラフトだぞ。年齢不詳のラヴクラフトだぞ。大丈夫だろ。」
まぁ、この人はそんなに人は心配しないだろう。
この人と言うのは浦色白香である。
「そんなに心配ならついて行けばいいじゃん。」
「なるほど。その手があったか。」
それなら大丈夫だ。
と、言う事で見に来た。
「やぁ、皆さん。...いや、『ティンダロスの猟犬』。神話生物の中でも結構な力を持つ曲面を持たない犬の様の姿を――いや、姿はないんだったね。すまない。しかし、こんな無駄話は君達もそんなに好きじゃないだろう。私も授業妨害されてイラついていたところなんだ。と、言う事で『文学・狂神話(ラヴクラフト)』。」
なんと、ラヴクラフト先生が自身の想像力を発動させると、なんという事だろう。何とも冒涜的な霧が出てきた。
「呪文詠唱――いあ いあ くとぅるふ ふたぐん――。」
そして、なんとも言えぬ名状しがたき冒涜的な文節を口にした途端、その冒涜的な霧は固まり、物質としての形を成していく。
しかし、その形は地球上で見た事もないなんとも醜悪な姿をしており、例えるならば退化したドラゴンの羽を持つ蛸の化け物あるいはイカドラゴンと呼ぶべき姿をしている。
「強化呪文――ふんぐるい ぶぐるとむ むぐるうなふ くとぅるふ る・りえー うが=なぐる ふたぐん――。」
しかし、その怪物はまた何かに変質していく。
それは留まることを知らず、ついに出来上がるのは王の風格を宿したなんとも言えぬ名状しがたき覇気を醸し出している蛸の、いや、蛸のような何かを模したような怪物である。
そして、その怪物は何と『ティンダロスの猟犬』を喰らい始めた。
「しかし、いくらクトゥルフと言っても旧支配者に過ぎない。これは、ダーレスの言葉だが、『ティンダロスの猟犬』は旧支配者よりかは外なる神に近い。だから、こちらとしても本気を出したい。なので、『ファイナルフェーズ』到達者の特権だ。心象風景『無関心なる宇宙的恐怖(コズミックホラー)』。」
そして、出てくるのは――いや、まず『ファイナルフェーズ』だと?
そこで思い出すのは先日のオーディションでの無垢美との会話である。
『私は世界初の『フェーズ3』到達者だ。』
あれ、この理論で行くと、『ファイナルフェーズ』に行ったのは最近で、あの研究結果が今年中に出ていたという事だから無垢美の言っていることは嘘になる。
もしかして、私、触れてはいけない闇に触れているのではないか?
しかし、そうやってボーっと――いや、非現実的で狂気じみた名状しがたき冒涜的な状況から目を背けたかっただけなのかもしれないが――考えていたら、目の前に広がっていたのはいつものよく見る学校の廊下ではなく、宇宙のような、地球のような、矛盾しかない混沌だった。
そして、そこにいたのは、
「やぁ、ラヴクラフト。こちらも貴方の生み出した原始の混沌の世話で忙しいのですよ。だから、あまり呼び出さないでほしいですね。」
「いや、今回は本当に危ないんだよ。ナイアルラットホテプ。しかも今はヨグ=ソトースが居ないんだよ。」
「はぁ、あの副王は空間そのものだからどこにでもいるしそっちの方が良かったのではないですか?彼こそが本当の外なる神ですし。」
「いや、ここは心象風景の中だから世界とは断絶されている。だから、ヨグ=ソトースが来れない。以下の理由から君が必要だったのだよ。」
「じゃあ最初から外でやれば良かったのでは?せっかくクトゥルフを呼び出したんですし。」
「クトゥルフは力こそ強いが、知能が圧倒的に足りない。しかも相手は『ティンダロスの猟犬』の中でも王に近い者だ。ならばそれよりも強い奴を出せばいいではないかと言う話であるが、そういう事でもない。あそこはもとより心象風景でなくても『モルグ街』と言う異空間なのだ。だから、来ようと思ってもヨグ=ソトースが来れない。しかもクトゥルフより強い邪神となると限られてくる。ハスターは一歩及ばずと言う所だし、かと言ってアイホートやイゴーロナク、ソトース等は使える場所が限られている。ましてはアイホート、イゴーロナクは生徒たちに危害を加えかねない。そして、シュブ=ニグラスやクトゥグア、アブホースはあれだ、えーっと...そうそう被害範囲と言うか効果範囲が広すぎる。あと、もし生徒がついてきたら邪神を見た事による発狂が心配だ。恐らく『フェーズ1』に到達していれば何とか耐えられる。」
「なるほど。ところで、もうあのワンコは全員殺しましたが、一つ情報が。」
「おや、何かね?」
「そこにお嬢さんがお一人。」
あ、バレた。
終わった。
私は今から、恐らくあの『ナイアルラットホテプ』と呼ばれる冒涜的な極めて悪意に満ちた名状しがたき存在に抹殺されるのだろう。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだイヤダ...
「嫌だ!!!!!!」
そこで私は意識を手放した。
人生で初めての失神であった。
―――「おや、これは...横山君か。なるほど。君――ナイアルラットホテプ――が横山君を襲ってしまうという酷い被害妄想にあってしまったのか。」
私がナイアルラットホテプが指差した方向を見てみると、そこには失神して倒れている横山君がいた。
「ほう。この娘の名前はヨコヤマ君と言うのですね。まぁ、興味ないのですぐに忘れると思いますが。」
「いや、この少女は覚えておいた方が良い。近々アザトースの力を宿した人間に会う予定があると予想する。」
「その根拠は?」
「いや、私の弟子に似ているな、と思っただけさ。どちらも白髪だったしね。」
そう、所詮その程度の予想なのだ。当たるはずはない。
まぁ、後は保健室で私がつきっきりで看病すれば問題ないだろう。
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