第5話・ここに資格ある者は集う
―――オーディションから二か月経った五月三日。
その間も私は忙しない日々だった。
まず、私の通っている学園―――『特別私立江戸川中高一貫学園』の高等部昇級試験――高校受験の様なもの――を受け、見事定員300人中254位で合格した(ちなみに受験者数は564人だった)。
あと、何故か理沙も高等部受けていたがどうしたのだろうか。あんなに大学行くって言ってたのに。
そして、ある日受験勉強からも解放され、悠々と街を歩き回り、帰ってきた時、見慣れぬ――しかしどこかで見た事がある封筒が挟まっていた。
この結構古い良い紙を使った特徴的な古風なデザインの手紙――もとい封筒。
これは。
「『ル・リエー』か。」
そう。トップアイドル事務所『ル・リエー』だ。
今までは結構いい場所で厳格なのかな、と思っていたが、実際はそうではなく。
ただ身内に甘い組織だということが分かった。
「いやー、まさか会長と血縁関係だったとは。」
オーディションの際、驚愕の事実が発覚した。
会長――空海無垢美――が私のお爺ちゃんの姉――要するに大叔母さんだったという事実である。
要するの要するに、会長と私は血縁関係にあるという事だ。
これを知った時、私は当然のごとく驚いた。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
今重大なのは、『ル・リエー』からの手紙である。
恐らくだが、この手紙はオーディションの結果だろう。
でなければ私あてに手紙が来るなどありえない。ましては超大物事務所の『ル・リエー』から来るなど一般人なら絶対にありえないだろう。
あ、別に友達が居ないという訳ではない。...本当だ。
「さて、オープン!!」
祈りなど込める暇もなく、私の体は勝手に動く。
好奇心は猫をも殺すと言うが、今回は殺しではなく絶望だ。
さて、結果は...?
「...ん?なんて書いてあるんだろ?」
この時は知る由も無かったが、彼女は超達筆で有名で合格通知なのか不合格通知なのかよく分からない。ネットの情報を見れば、『ル・リエー』に入りたいなら、まずは漢検2級以上取れ、との事だった。
残念ながら、私は漢検は持っていない。
と言う事なので、一回『ル・リエー』に入った経験がある母さんに読んでもらおう。
今ちょうど居るらしいしね。
「母さーん!!『ル・リエー』から何か来てるんだけどー。」
「はいはーい。ちょっと今行くから、待っててー。」
そこから5分ほどして、
「お待たせー、の前におかえりー。」
母さんは到着。恰好はいつも通りの服にエプロン。普通の主婦の恰好をしている。
「うん。ただいま。で、早速本題だけどこの中身が読めないんだよね。」
母さんは不思議そうな顔をして、
「何が読めないの?そんなに難しい漢字は書かれていないはずなんだけど。」
誰もがそう思うだろう。
しかし、悲しいかな。それが現実に起こっているのだ。
「いや、そうじゃなくて。超達筆すぎて何を書いているか分からないの。」
母さんは手紙に近づき、なるほど、と納得したような表情を見せた。
「これはね、『合格。五月十四日にる・りえーに来なさい。』と書かれているんだよ。」
まさかの合格...っ!
「やったー!!!合格!!これで不安は何一つなくなった!」
二か月間の不安に怯える日々はもう終わった!!我々は自由だ!!
私は、不思議そうな顔をしている母を置いて、部屋に戻った。
そこから先に帰っていた理沙に自慢してやった。
――そして、現在、五月十四日『ル・リエー』本社ビル。
そこに集まっているのは、私を除いた六人の少女と一人の女性。
そして、
「君達!今日は集まってくれてありがとう。早速だが、説明をさせてもらおう。クt...久楼君。」
無垢美に水睡と呼ばれた人物――さっきいた一人の女性――が前に出てきた。
「では、みんなーー!!こんにちは!これから君たちの総合マネージャーの『空海 久猗(ソラウミ クア)』です!よろしく!!」
わー元気いっぱいだー。
「さて、みんなが集められた理由は知っているかな?そう!君たちがこの『ル・リエー』にふさわしいと判断されたからだよ!と、言う訳で、君達にはお互いに自己紹介をしてもらいます!」
まさかまさかの展開になった。
――と、言う訳で私達は今、『ル・リエー』のカラオケ室に来ています。
「...」
「...」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
「...」
「...」
「...」
「...」
誰も喋ろうとしない――しかし、なんかブツブツ言っている奴がいる――。
まぁ、当然と言えば当然である。
初対面の人とどうやって緊張せずに喋ればいいというのだ――あと、なんかブツブツ言っている奴がいるし――。
しかし、そんな空気を砕いたものがいる。
「...それじゃあ、私がまずは自己紹介をしよう。」
紅い髪をした少女である。ちなみに、私は遺伝的に――主に父の方に――白髪が多いみたいなので、その影響で白髪であるようだ。そして、理沙は母の方の遺伝的にどこか近いところで欧米系の血が混じっているみたいで、金髪である。
「私の名前は『
右の奴と言えば...金と黒の混じった髪をしている少女。
「誰に命令しているのだ!!この赤髪野郎が!」
「ああ゛?誰に口聞いてんだテメェ?さっさと自己紹介しろやこの野郎!!」
なんか紅い方が怒ったら金髪の方が「ヒッ!」ってビビっていた。なんか可愛い。
「う~...分かった。良いだろう!この私の寛大さに跪くが良い!!私の名前は『
長々とお疲れ様です。後でのど飴あげます。
そして、金髪の奴――もとい有可はこれまた右の少女――髪は藍色――を指差している。
その少女は...なんというか、俗に言う地雷系と言うべき服装をしている。いや、恐らくそうだろう。あんなにブツブツ独り言を言っているという事は結構病んでいるのかもしれない。不用意に触れるとやばいことになる。
まぁ、そんなことありゃしないとフラグ的なことを思いながら自己紹介が始まったのでそちらに耳を傾ける。
「...私は『
彼女――もといこころは下を向いて一瞬黙り、そしてまた顔を上げた。
しかし、その顔はさっきまでの無表情ではなく、嫉妬心に満ちた睨み顔だった。他の人より少し背が低いせいか上目遣いになるのだが、なんか可愛い。
「...何か言いなさいよ!!私がせっかく自己紹介してるのに、何?その反応?あとお前達皆背が高くて上から目線!!なんと妬ましい!!呪ってやるわ!!」
「まぁまぁ愛崎。落ち着いたらどうかな?」
「うるさい!!それじゃあお前が自己紹介しなさいよ!!あ、お前うちのクラスの”おおはな ちあき”って奴ね!!漢字がよく分からないのよ!!妬ましい!!早く自己紹介しなさい!!」
「おお、これはこれは。覚えてくれていたみたいで光栄な限りだよ。それでは、次は僕が。」
なんか聞いたことある名前が。えーと誰だったっけ?
そして、次は流れ的に”ちあき”が自己紹介することになった。
「どうも、皆さん。僕は『
千明は優雅なお辞儀を決めた。
今思い出したのだが、この千明は江戸学の入学試験の時の二位だった人だ。
「では、お次はお隣の人、お願いします。」
次に指定したのは...あ、私だ。
「あ、はい。えーと私は横山慧宙です。皆と同じ江戸学1年です」
次は、想像力紹介!!
あの後――オーディションの後、すぐに区役所に行ったのだ。
行った課は、『区民想像力課』。
そこで私は、あることを思い出した。
『区民想像力課』は、思春期真っ盛りの頃にかかる治療法のない病気――所謂”中二病”患者ばかりいる、と。
それは事実だった。
そのエリアに入ってすぐに気づいた。
壁紙が黒であったり、そこに目立つように赤で所々に魔法陣が描かれていたり、オフィスの中央にはなんか魔王が座るような椅子が置いてあったり、挙句の果てに恐らく課長の仕事場の壁には動物の頭蓋骨が飾られている始末。
しかも、こう言ってきた。
〈そこの迷える子羊よ。吾等が魔なる”
と。
”
そして、「フェーズが上がったので申請しに来ました。」って言ったら、なんか目を輝かせて、
〈ほう。汝、それは吾等と同じ領域に踏み入れたのと同じ!!吾等がその異能の名前を付けてやろう。〉
と、言ったので、まぁ流石に人の能力にネーミングセンス皆無の名前は付けないだろう、と思ったので了承したら、恐ろしいことが起きた。
なんと、『暴食』が『
変えたかったが、私にはそんな度胸がなく、諦めた目をしてその場を去った。
そして、今、そんなネーミングセンス皆無の名前が続々と上がってきている。
恐らく彼女たちもあのネーミングセンスゾンビの被害者なのだろう。
そうなるとなんか同情してきた。
「えーー私の想像力は『
右を見てみると、簡単に言うと寝ていた。それも安らかに寝息をたてながら無防備に。
熟睡しているようなので起こすのに気が引けた。
それを見かねて起こそうとしたのは紅い髪の少女――輝夜だった。
「オラッ!!起きろ!テメェの番だぞ!オラッ!起きろ!!」
必死に揺さぶるが、反応はない。ただの屍の様だ。
「はぁ、まあいい。こいつの事は私が説明する。こいつは『
お次はえっと、その、すごく、きわどいです。
「ん?あ、アタシの番?んじゃ、手っ取り早く終わらせるわ。アタシは『
ん?と、言う事は...
「要するに、アタシは純潔を散らしてる。」
あああああ!!ヤっちまってる!
と、言う訳で自己紹介終了(一人やってない)!!
そして、更なる説明を求め、私は会長を呼びに行ったのであった。
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