第4話・知られざる
前藤にしこたま殴られた後―まだ顔面ボコボコでは無いのでましだ―私達が入る箱を注文してお開きとなり、その翌日、最終確認をし、パーティーに備えその日は早く寝た。夜寝る際、両親が
「異能だとよ。」
「怖い世の中になったものだね。」
と言っていたが、どうせ年老いた老人の戯言だろうと気に留めなかった。
―現在時刻午後五時三十分。集合時刻だ。いや、集合時刻は二十分かな?覚えていないな。
まぁ、間違っていたら前藤が怒るだろう。それが間違っていたという証明だ。二度同じことを言った気がしたが気のせいだろう。
「すまない。遅れたかな。」
果たして前藤の反応は…
「いや、遅れてないよ。」
良かった…間に合ってい……
「あと十分早かったらね。さて、十分予定が遅れてしまったがどうする?」
あぁ、終わった。
「いや、ちゃうんすよ。こう言う事じゃないかったんです。そ、そうだ!フランが!フランが三十分と言ったんだ!」
「黒は十分に来てさっさと準備をしていた。さて、貴女はどうなんだ?」
ぐはッ!くっ、痛いところを突かれてしまった。さて、どうやって反論するか。いや、言い訳だな。言い訳を考えなければ。
「いやぁ、その事なんだが昼に食べた魚が当たってしまったんだ。」
「お前今日の昼給食だろ。同じもん食ったからな。もし当たったならその事が広まってもおかしくない。」
もうダメだ。おしまいだ。
「はい。その通りです。この通り反省しています。だから殴らないで下さい。お願いします」
…そして何分間かの沈黙が続いた。
「…分かった。今回は許してやる。だから泣くなよ。こっちが悪いみたいな雰囲気になったじゃん。」
はっ!前藤の言葉遣いが元に戻った!よっしゃ怒りが静まった!これこそが私の策『言い訳は涙を使う』だ!ふっはっは!どうだ!見たか前藤!
「んじゃ行くか。」
「そうしようか。」
その後、私とフランは注文してめっちゃ速く届いた箱に入り―超狭かったしフランの呼吸が荒くなっていたが―、問題なく時間は来た。
――箱の外から声が聞こえる。
『やぁ、こんにちは。いや、こんばんはかな。日頃からうちの馬鹿な弟に構ってくれてありがとね。自己紹介しよう。私の名前は前藤風弁。君の彼氏?、前藤境の姉だよ。』
『あっ、こんばんはです!今日は境が挨拶に行こうというので来ました。よろしくお願いします!。』
『いいよ爾知恵。そんなに畏まらなくて。風姉はそういう空気が嫌いなんだよ。んじゃ、風姉。改めて紹介するよ。僕の彼女の哲栄爾知恵だよ。』
『へー、爾知恵っていうんだ。あっ!そうだ、君達にプレゼントがあるんだ。』
『プレゼント!楽しみです!』
『どんなプレゼントなの?』
『ふっふっふ。見て驚け!これが私からのプレゼントだ。』
パチン。よく響く前藤の指パッチンの音が聞こえた。これが合図だ。
しかし、さっきから少し体が熱い。熱でも出たのだろうか。
しかし、今日はこの用事が最優先事項だ。このぐらいの体調不良で台無しにするわけにはいかない。
「よし。出るぞフラン(小声)。」
「はい!そうしましょう(小声)。」
パカッと箱が開く。
そして最初に見たものが、
――苦しんで蹲っている爾知恵の姿だった。
「おい!どうした!何かあったのか!」
私が声をかけても反応は呻くだけ。そして、私の体も段々と熱くなってくる。
そうこうしている内に爾知恵が口を開いた。
「逃げ…て…くださ…い。何か分かり…ませんが…危険です…。か…体が、あ…熱い…!」
私はこの言葉に衝撃を受けた。私が今なっている症状と全く同じことが起こっているからだ。
私の脳は混乱していた。しかし、体は熱くなっていくばかり。
どうすればいい?
そう考えていた矢先、最悪の事態が起こってしまった。
「ああああああああああああああああ!」
爾知恵の体に異変が起こった。それは何ともこの世のものではない異形の、それこそ名状しがたき姿に変わっていっていた。
山羊の角のようなものが生え、衣服は弾け飛び、見えた身体は深淵のような黒に覆われている。
写真で見た可憐で可愛らしい少女の顔とは違い、獰猛な牙が見え隠れする口に、肉食動物のような眼を持つ怪物に変化していた。
「
爾知恵だったもの―そう呼ぶのは長いので『ニチエ』と呼ぶことにする―はそう叫んだ。
そして、叫んだ時フランと私以外の者たちが気絶した。
「何が起こった!フランと私以外が倒れたぞ!」
「一条さん!どうなってるんですか!あの怪物はなんですか!」
「知らん!こっちが聞きたい!」
どうするどうする?そんなことを考えていると、体の熱さは最高潮に達した。
「グッ!ま…不味い!私まで…ニチエと同じことになってしまうとは!フラン…一旦退け!私の事は構わない!早く行けーーーーーーーーーッ!」
「そんな…一条さん!一条さん!絶対…生きて帰ってきてくださいね!そして、もう一度…私の頭を撫でて下さい…。」
「あぁ、約束しよう。私は必ずニチエを止め、皆を連れて戻ってくると!」
頭が朦朧としている最中、私はそう答え、その後意識を失った。
――何時間経っただろうか。私は目を覚ました。
目の前には、今にも前藤を襲おうとしているようなニチエが立っている。
そこで私の意識は完全に覚醒した。
「やめろおおおおおお!」
しかし、そう叫んでも現実は変わらない…と思われた。
突如として、ニチエの胴体部に大きな穴が開いた。
気付くと、私は無意識のうちに手を鉄砲の形にしていたらしい。
ニチエは前藤からこちらへ視線を変えると胴体部に空いた穴を完全に修復した。
しかし、私の頭は危機的状況に陥るほど冷静になる頭だったようで、ここから抜け出せる方法を必死になって探していた。
すると、ふと頭に夜、両親たちが言っていた言葉を思い出した。
『異能だとよ。』
この言葉が一気に私の思考の回路を作り上げた。
もし、ニチエのこの力が両親の言う異能と同じなのだとしたら、もし、ニチエの胴体部に大きな穴をあけた力が私の異能なのだとしたら、私はここから抜け出せ、なおかつ、ここにいる奴らを全員外へ逃がしてニチエを無力化することができるのではないか、と。
そう考えた私は、さっそく行動に移した。
自分の中を感じる事ができれば、今何ができるかがわかるのではないかと。
ネットで見たが、そういうことをするには座禅が一番だと見たことがあったが、今はこのような危機的状況。できるわけがなかった。
となると、後は自分の無意識で解決するしかないのか。
そうしたら私は、回避する思考だけを残して、頭の中を空っぽにした。
すると、私にできることが頭の中に入り込んできた。
要約をすると、私の持っている異能は『宇宙の外にある虚空の力を操る能力』らしい。
ならば、戦えるということだ。
「さぁ、来い!ニチエ!私が相手をしてやろう!」
そうして戦闘は始まった。
ヒュン。耳元でそんな音が聞こえた。
あの一撃はもし直撃していたら耳どころか頭が粉々になっていたところだった。
こちらも反撃に出ないといけないかもしれない。いや、しなきゃいけない。
「オラァッ!くらえニチエ!『無銃』!」
これは、虚空を一点に集中させ、超圧縮し、形を操り弾丸の形にして放つ―何故形を変えるかはこっちの方が空気抵抗が少ないからという理由だが、虚空は空気抵抗を受けるのか―技だ。
そして、これをニチエの胴体部に当てたが、またしても深淵のような黒が穴を覆いつくしていく。
どうやらこの深淵のような黒は、再生能力に似たものがあるらしい。
となると…。狙うは、
「頭の一点のみ!」
私はニチエの頭に向かってほぼ乱射に近い攻撃をしたが、ニチエはそれを避ける避ける避け続ける。胴体の時は回避行動はしなかったのに。
これで確定した。頭が撃ち抜かれたらそこでこの名状しがたき異常な姿は解け、元の爾知恵に戻るのだと。
しかし、今、ニチエは人間とは違う姿をしており、人間よりもはるかに高い運動神経を持ち合わせている。
避けるなら、今回はしっかり狙うのみ。
「今回はしっかり狙う!『無狙銃―追尾―』!」
追尾機能のある虚空。これがニチエの頭に降りかかる。
「勝った!」
しかし、まぁこんなフラグを立てると絶対悪いことが起きる。
頭に当たる。そんな時、影が飛び出しニチエを庇ったが、虚空が貫通しニチエにもあたった。
その影というのは、
――境だった。
ニチエが境に助けでも求めたのだろうか。普通こんな化け物を庇うなんてことはしない。
虚空に胸を撃ち抜かれ、血がドバっと出ている。
傍には元の姿に戻った爾知恵が傷だらけで横たわっていた。境は目を開けこちらを睨みながら、
「何故…なんですか。何故、彼女を殺…したんですか。」
私はなんて答えたら良いか分からなかった。
齢十三の少年が痛みを堪えながら彼女の様態を涙を流しながら案ずる。
私だけではないはずだ。このような状況下ですぐに言葉が浮かぶ奴こそおかしいのだ。
だから、私は虚空を用いてそのニチエに関する記憶をすべて消去することにした。ニチエに関する記憶だけで、爾知恵に関する記憶は消さない。
そんな高度な技ができたのはその時、ものすごく集中力があったからだろう。
その後、フランが呼んだ警察と『NEF』護衛部、危険生物対処隊が到着し、事情を話した。――聞いた話によると、前藤は命に別状なく、境と爾知恵は意識不明の重体らしい。
――「これで私の話は終わりだ。よくこの老人の昔話に付き合ってくれたな。礼を言おう。」
無垢美の話は予想以上に長かった。しかもさらっと国家機密並みの情報言ってなかった?
「では、もう帰っていいぞ。」
あっ、そっか。これオーディションだった。
「んじゃ、失礼させていただきましょうかね。」
扉を開けようとしたとき違和感を覚えた。ドアノブに触れようとしても触れられないのだ。
「あっ、言い忘れていた。君、『フェーズ1』に上がったから役所に『フェーズアップ申請』を届けろ。『想像力使用法』で決められているからな。それと、この白黒を解除する方法を教えよう。」
そうだった!この白黒の事めっちゃ忘れてた。
「して、この白黒の解き方とは…?」
「吐き出せ。」
….は?
「ワンモアプリーズ」
「吐き出せ。」
聞き間違いではなかったようだ。
「吐き出すって言ってもどうやって?」
「『永食』の異空間から『時』という概念を吐き出せ。」
あ、これ『時』だったのか。気付かなかった。
そういえば『ジョルムンドのストレンジな冒険』の某カリスマ吸血鬼さんが時を止めた演出もこんな感じだった気がする。
「では、『解放:時』!」
そうすると白黒の世界に色が戻り、周りの者が動き始める。
「えーはい。では、想像力の実技をやってもらいますが...」
「いや、問題ない。彼女はまごうことなき『フェーズ1』能力者だ。」
「何故そう言えるんですか?」
「理由としては、彼女の想像力の影響下に入ってしまったこと。そして、彼女は『時』という概念を喰らい、一時的にこの世界を止めた。そういう事だ。」
なるほど、原理としてはそういう事だったのか。
「分かりました。それでは、次はダンスの方を見せてもらいます。」
来た!これは何回もやった。
と言っても母さんに少しダンス指導をしてもらっただけだけど。
「了解しました。では、曲名は『
そこからは、母さんに教わった技術のフル活用だったからそんなに難しくなかった。
「はい。良いです。では、次に歌を聴かせて下さい。」
よし。ここは母さんの代表曲で...!
「了解しました。では、曲名は『グリモワールズ』で『神の崎にて。』結構短い曲ですが、聞いてください。」
「―――♪―――」
「はい。OKです。今日はこれで終わりです。お疲れさまでした。結果は発表し次第こちらから送ります。」
「はい。分かりました。ありがとうございました。」
終わったああああああ!やっとこのプレッシャーから解放される...!!
そういえば無垢美大伯母さんはどうしているのか。
チラッと見てみると、寝ていた。あの野郎。
「会長!起きて下さい!会長!」
あの人も大変そうだなぁ。
「...ん?あぁ、終わったのか。それじゃ、またねえーちゃん。」
孫贔屓するつもりかあいつ。まぁいいや。
合格発表を待つことにしよう。
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