第2話・オーディション当日
私―横山慧空は、人生で一番緊張している。足がガタガタ言っている。歯がガチガチ鳴っている。
その理由は今語ろう。
理由は、ここがオーディション会場だからだ。
私が言いたいことが分かるだろうか。
そう、今からオーディションが始まるのだ。
会場には続々と希望者が集まってきている。
「あいつ強そうだな。こいつは弱そうだ。」
なんか強さ(?)を査定してるヤツがいる。
あっ、こっち向いた。
「あいつ...『大罪』か。強そうだな。」
これってアイドルのオーディションだよな。戦闘員とか軍人の選抜試験じゃないよな。
おっと、時間になってしまったようだ。私も会場の中に入らないといけない。
震える体を抑え、会場内に入っていった。
「神城灯です。よろしくお願いします!」
こんな普通な挨拶が交わされていく。
しかし、そんな中で異色の挨拶をするものもいた。
「土星輝夜だ。あんたらは良く知らんが今日はよろしく頼む。」
だの
「寝...上...智香...よろしk、zzz...」
と、寝てしまうヤツだの
「君達!私が名乗るのを有難く思え!私の名前は、朱雀坂有可だ!」
と、お嬢様気取り―ホントにお嬢様かもしれないが―するヤツだの
「お前らは高みの見物でいいかもしれないけど!私たちは本気なの!いつもそんな位置にいるなんて妬ましい!妬ましい!私の名前は愛崎こころよ!」
と、よく分からない事で妬ましいだのいうヤツだの
「名前だけ先に教えとくよ。私の名前は大華千明。後は本読どくから適当に質問しといて。」
と、どこから目線か分からない発言をするヤツだの
「はいはーい!皆の恋人、浦色白香です!よろしくお願いします!」
と、この中だとものすごくまともだけれども普通のヤツから見ると、こいつめっちゃ自信あんな、などと解釈されそうなヤツだのがいた。
―そして、自分の番がやってきた。
「っと...次の方ー」
「は、は↓い↑!」
変なイントネーションになってしまったが、まぁ、これはオーディションの緊張の代表例というものだ。そこまで心配することではない。
...フラグではないだろうか。いいや心配することではない。そうだ。きっとそうだ。多分。絶対。
そう思いながら、私はドアを開けた。
「失礼します。」
ここでポイント。普通の人なら案内されるまでに椅子に座ってしまいそうだが、それでは面接する人からの評価が下がってしまう。なので案内されるまで椅子に座らないのが吉なのだ。
「どうぞ。」
その言葉と共に私は椅子に座る。
「では自己紹介を。」
自己紹介。大丈夫だ。予想してやってきた。
「はい。えーっと、名前は横山慧宙です。」
よし、ここまではシナリオどおりだ。
「っと...では、長所と短所を教えてください。」
「...ん?」
ここで私の脳が思考モードに入った。長所と短所、当たり前といえば当たり前の質問だが、考えてなかった。そこからは異常なスピードで脳が回転し始めた。
長所と短所。短所はすぐに思い浮かぶ。優柔不断、すぐ怒る。しかし、長所はすぐには思い浮かばない。そうだ、自分の人生を振り返ってみよう。
西暦2032年4月22日、東京都のある病院で母、ヴァレンタイン・バレンタイン―もとい横山茜と作詞家である父、横山楓徒との間に生まれる。
病院の名前は覚えていない。
生まれたときのパラメーターは覚えていないが、現在のパラメーターは覚えている。
身長153cm、体重48kg、Aカップ...いやこの話はよそう。誰も幸せにならない。
想像力は『
主な能力は周囲の物を食べる『暴食』、無尽蔵の容量を誇る異空間を作り出す『永食』。想像力から連想していくと私の長所は、『よく食べる』である。
アイドルには不向きの長所だが今はそれしか分かる事がない。
これで行くしかないだろう。
いやしかし、本当にこれでいいのだろうか。
考え直せばあるかもしれない。しかしもう時間がない!
よし、これで行こう。
「長所はよく食べること、短所は優柔不断な所です。」
よし!言った!
「なるほど...。次にあなたの『想像力』を教えてください。」
『想像力』か、私はあまり人に話したことないな。
「はい。私の“想像力”は、“化身・暴食”です。主な能力は、周囲のあらゆるものを食べつくす『暴食』と、無限の容量を誇る異空間を作り出す『永食』です。」
「ふむ...。奇妙だな...(小声)。はい、ありがとうございます。では、今ここで出来ますか?」
えっ?ここで?ヒア?おっと、つい英語が出てしまった。英語か?これ?まぁ出来ないことはないが。
「はい!では、ここにある椅子を食べようと思います。...フーッ...よし!『暴食』!」
そして、私は『暴食』を発動させた。途端に椅子が上から徐々に塵になって手の中に吸い込まれていくではあーりませんか!
およそ5秒後、その椅子は無くなった。
「これが、私の“想像力”です。そして、今消えた椅子は『永食』の異空間に収納されていますので、また出せます。」
決まった...!やった、やったぞ!発動したぞーーーーッ!
スマソ。少し取り乱してしまった。
なぜここまで喜んでいるかというと、ほとんど“化身・暴食”を発動させたことが無いからだ。理由は単純に発動する機会が無いからだ。
あるとしたら、小学校の頃、理沙の持ち物をこれで食べたぐらいだ。あの時の焦った顔は今でも忘れられない。
ちなみに食べたのは、あいつが苦手苦手だと言っていた国語のプリントだ。
そんな内心浮かれまくっている私に衝撃的な言葉を投げつけた者がいた。
「...少し良いかい?君、私と同系統の能力を持っているようだけど、それなら私のほうが上だね。」
何と張り合ってるんだこいつ、と思ってしまったのも無理は無い。なぜなら、そう言ったのは、
ここ――『ル・リエー』を運営しているグループの会長、空海無垢美その人であった。
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