大罪の歌唱偶像

セカイノ/ネコノカンリニン

デビュー&ティンダロスの猟犬編

第1話・オーディションに受かるには


 私―横山慧宙の“想像力”は、大罪の悪魔『ベルゼビュート』の力を操るものである。主な力としては、周囲の物を食べつくす『暴食』、無尽蔵の胃袋(異空間)生み出す『永食』である。私はこの力を駆使してオーディションを勝ち抜かないといけない。

 しかし、当の私は

「ああああああああ!本当に出しちゃった!本当に出しちゃった!ああああああああああ!くぁwせdrftgyふじこlp!」

 と、この様にテンパリ過ぎて発音困難な言葉を発しているという非常に危ない状態である。

 そんな状態の私に喝を入れる者がいた。

「だあああ!ウルッサイなあッ!勉強に集中できないじゃん!近所迷惑だし!叫ぶならカラオケボックス行って来い!」

 そう言うあんたがうるさいよ、と学校だといわれそうなこの人は私の双子の姉『横山理沙』である。『想像力』は、小さな秘密を司る“小アルカナ”である。主な力としては、相手の小さな、それもそんなに重要性のない秘密を暴く『小秘暴露』である。

「いや、カラオケボックス行く余裕があるならすぐに行ってるよ!気になるならあんたがカラオケボックス行きなよ!わあああああああああああああああああ!私が!私が、もし、アイドルになったら君はどう思う?」

 テンパリ過ぎて一巡して冷静になった私は理沙にそう問いかけた。

 すると理沙は何言ってんだこいつ、みたいな顔をしてこう言った。

「あんたが、アイドルになるぅ?んな事できるわけないでしょ!母さんじゃあるまいし。」

「その母さんが『ル・リエー』のオーディション招待状を貰ってきたんだよ!」

「...マ?」

「Yesだ。聞いてくれ、事の顛末を。」

 私は、今までのことを包み隠さず全てを話した。

「―なるほどぅ...。となると、オーディションに行く必要がある...いや、当たり前だな。して、あんたはオーディションで何するか決めてるの?」

 理沙はさっきとは打って変わって真剣な表情で聞いてきた。

「いや、特に決めてないけど。強いて言うなら『想像力』でなんかしようかな、とは思ってる。」

「なんかしようかなと思ってる、だけじゃ無理に決まってるでしょ。明確なイメージがないと練習でもできずに本番でもできない、みたいな事になるのは目に見えてるから。まぁ、私が手伝えることはないけど一つだけ言うなら、解釈広げな。」

 私は一瞬、こいつ誰だ、と思ってしまったほどものすごく的確なアドバイスだった。最後の言葉は何を言いたいのか分からないけど。

「解釈広げな、って具体的にどうすれば良いのさ。」

「分からないなら『解釈を広げる』の意味を辞書で引いて来い。」

「聞き方が悪かった。具体的に何の解釈を広げれば良いのさ。」

 理沙は、重々しく口を開いた。

「それは...」

「ゴクリ(固唾を飲む音)...」

「“想像力”だ。」

「...は?」

 なんか想定外の解答だった。

「何故?」

理沙は、フー、っと溜め息ついた後続けた。

「あんたホントに何も知らないよね。良い?最近分かったことだけど“想像力”には、〈フェーズ〉ってのがあって〈基本フェーズ〉、〈フェーズ1〉、〈フェーズ2〉、〈フェーズ3〉、そして予測では〈ファイナルフェーズ〉がある訳。」

「なんかバトルものみたいだね。」

「まぁそうだな。んで、全員最初は〈基本フェーズ〉だから。これが何を意味してるか分かる?」

「分かると思ったかこの馬鹿め。」

「だよな。これが意味することは誰よりもいち早く〈フェーズ1〉になればその分合格する確率が上がる、って言うこと。あんたも知ってると思うけど、一応話しとこう。有名な話だけど、オーディションの自己PRの際“想像力”を使ってもOKという事。だからこれもPRポイントになる訳。分かった?んじゃ私は勉強に戻るから。もうそろそろ大学受験の時期だからあんたも用意しときな。」

 そう言い終わると理沙はニヤァ、とした笑みを浮かべ、

「そのアイドルのオーディションに受かったなら別だけど。」

 うざい言葉を残して机に向かいなおした。

 それに私はこう言ってやったのさ、

「私は、高校受験だ!」

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