第87話
「これ、私に!?」
重いけど、大丈夫かなぁ?と私が心配して言うと、茉莉ちゃんは大丈夫!送迎してもらえるからと言う。
「茉莉ちゃんに食べてみてほしかったの。ずっと……私のこと心配してくれてたり応援してくれたりしたもの……」
それに、半年もしたら卒業を迎える私達は頻繁には会えなくなる。少し寂しくて心細い。茉莉ちゃんには感謝の気持ちを伝えたかった。
「すごく嬉しいわ!
アハハと明るく笑う茉莉ちゃんは私の寂しい気持ちを吹き飛ばしてくれる。明るい彼女に私はどれだけ救われてきたかわからない。
「二人で作った……『愛のお米』。美味しく羨ましく食べるわね」
「え!?な、何!?変なこと言いださないで!」
愛のお米って!?なに!?その名前は恥ずかしすぎるんだけど!?表現がストレートすぎて、顔が赤くなる私だった。
そして茉莉ちゃんにお米をあげたことから意外なことが起こり始める。数日間、茉莉ちゃんはご飯がすごく甘く感じて美味しいとお弁当の時間に話していた。
「ねぇねぇ。うちの親がさ……お米があんまり美味しくて、会社の人達にもおにぎり作ってあげたらしいのよ」
えっ!?と私はお弁当から顔をあげる。茉莉ちゃんが申し訳なさそうに言い始める。
「そしたら、このお米が美味しすぎる!ってなっちゃって。他の人も買えないかってなったのよ。私の家も追加で欲しいんだけど、買えるのかな?」
「ちょっと千陽さんに聞いてみるわ。そんなことになってたなんて……」
「うちの親が、この米、美味いから食べてみろーって自慢したわけよ!私、大事に桜音のお米食べてたのにっ!もうほとんどないし!」
半分怒り気味で言う茉莉ちゃん。千陽さんからのメールで『お米のおかわり!?それは嬉しいけど、どのくらいなのかな?』と入ってきた。茉莉ちゃんがメモ用紙を見せた。そのまま写メを撮って送る。
千陽さんから『予想意外の多さ!その半分なら大丈夫です』と驚きを隠せない雰囲気でのメールが返ってきた。
茉莉ちゃんの家は
お米を買ってくれた人達から、また口コミで広がっていき、その後も問い合わせが来て、千陽さんが来年は無農薬米の田んぼをもう少し増やしてみようと嬉しそうに笑った。
「なんだかこうやって、自分の作ってるものを喜んでもらえると、認められたって嬉しくなるね」
父さんやじいちゃんに比べたら、まだまだなんだけどねと言うのも忘れない千陽さん。
「私にしたら、千陽さんは今でも十分すごく見えますけど……」
「ぜんぜんだよ。でも頑張るよ」
まだまだなんだって自分で思う千陽さんは足りないと思うものがあるからこそ、これからも努力して、勉強して挑戦してもっと良いものを作り出していくと思う。
私もお手伝いします!お米も野菜も!と言うと心強いよと笑う千陽さん。私の力なんて微々たるものかもしれないけど、頑張る千陽さんの世界に入れて欲しい。
お米はそのうち栗栖農園の無農薬の特別栽培のお米として売りに出されることになる。それはまだ数年後のことだけれど。
ちなみに名前は愛のお米……ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます