第63話

 千陽ちはるさんと動物園の後、道の駅に寄った。デートしようなんて言ってくれて、もう舞い上がり過ぎてる自分を子供っぽ過ぎるかな?大丈夫かな?と思いながらも嬉しさを隠しきれない。


「ここ、新しい道の駅なんだ。こないだテレビで見て、来てみたくて。栗栖くるす家の野菜も道の駅に置いてるから、参考になるかなぁと思ってさ」


 仕事熱心だし、やっぱり好きなんだって思った。仕事に真摯にいつも向き合ってる。ちゃんと目標を持ってる人。自分のやりたいことに真っ直ぐだと思う。


 私も一緒に物を眺めていく。家の近くにある道の駅よりも規模が大きくて、いろんな物が売られている。


 ふと、山菜の天ぷら、いなり寿司、おはぎ、漬物、煮物、ふき味噌などが目に入った。


「お惣菜!?こういうのも売ってるんですね。しかもおばあちゃんの手作りって感じで、美味しそうです」


「うちの町にも作ってる人いるよ。けっこう好評らしい。手作り味噌や梅干しとか時間のかかる物を自分の家で作らなくなった人も多いから、こうやって懐かしい味を味わえるのは良いよね」


「確かにそうですね……栗栖農園は加工品は出さないのですか?」


「出してみたいんだけど、日々の農作業で忙しすぎる……ばあちゃんは近所の人達と会を作って、味噌や梅干しを出してるよ」

  

 千陽さんは、このあたりの洋菓子店や和菓子屋さんが出してるスイーツを買って行って、今日の夜のデザートにしようと選び出す。確かにスイーツも美味しそう。


「野菜を使ったドレッシング、地元素材のレトルトカレーにお米を使ったお菓子もあるんですね」


「地元企業とコラボしてるのも多くて、面白いよ」


「ホントですね。しかも美味しそう。買ってみようかな」


 イチゴやブルーベリーのジャム、地元のお肉を使ったというレトルトカレー、栗栖家用のお土産にドレッシングを買う。自家製のお茶も良いなぁと思い、悩む。


 農家さん達が出している野菜のコーナー千陽さんは眺めている。横顔が真剣で、素敵だなぁと私はつい千陽さんを探して目で追って見てしまう。

  

 私の視線に気づくと、ニコっと笑いかけてくれるた。……もうそれだけで、私は幸せになってしまう。単純な私。


「そろそろ、併設されてる、地元の食材使ったレストランで食べていこう」


 すぐ隣のスペースにある所へ入っていく。お昼はすぎているのに賑わっていて、空いてる席に座って注文を考える。


 オススメメニューが黒板に書かれている。


「迷います……千陽さんは?」


「僕は地元野菜のカツカレーにしようかな」


「フフッ。カレー好きですね」


「うん。好きなんだー……って、そういえば、前に桜音ちゃんが作ってくれたカレーも美味しかった。また食べたいな」


「ほんとですか!?今度、栗栖家の夕飯に作ります」


 また食べたいと言ってくれる嬉しさ。ニコっと笑う千陽さん。この空気だけで、私はフワフワとした気分になってる。


 私は黒板に書かれていた季節の野菜入りのパスタにする。パスタにも野菜が練り込んであって、緑色の色味がうっすらついている。スナップエンドウ、ベーコン、新玉ねぎなどの具がたくさん入ってる。デザートには可愛い小さなプリンがついていた。プリンの卵もここで採れたものを使っているらしい。


 一口食べると、野菜が甘くて新鮮なのがわかる。美味しい。私はもともとそんなにたくさん野菜を食べる方ではなかったのに、栗栖家でご飯や千陽さんのお弁当を食べているうちに、野菜の本当の味を知って、すごく好きになってる。


「美味しいです!こんなふうに採れたての旬の物を食べれるレストラン……きっと千陽さんの作った野菜やお米もいろんな人にこうやって食べられているんですね」


「そうだなぁ……まだじいちゃんや父さんには敵わなくて、修行中みたいなものだけど、作った野菜を認めてくれて買ってくれて、美味しく食べてくれてるのかなと思うと嬉しくなるし、よし、また頑張ろうって思うんだ。こないだ道の駅で野菜を並べていたら『いつも栗栖農園の野菜を買ってる。味が違うよ』って言ってくれたお客さんもいたんだ」   


 こういう場所は作ってる人達の力になるんだなぁとなるほどと私は思った。


「桜音ちゃんが手伝ってくれた物もちゃんとお店に出てるんだよ」


「私なんて、ほんとに……微々たる力しか……」


「そんなことないよ。一生懸命してくれてるのがわかるよ。桜音ちゃんが作った野菜も皆の家の食卓やお弁当、レストランでいろんな味付けされて、食べられてるよ」


「私、お手伝いしかしてないのに、図々しいかもしれないけど……その千陽さんの言ってる意味はすごくわかります」


 私がしてるのは、ほんの小さな手伝いだけど、それでも最初の小さな種が生長していく課程とか、収穫して、皆に喜んで食べてもらえてると思うとすごくすごく私は嬉しくなる。私も少しは誰かの役に立ってるのかもしれないって思える。


「そう思うと、仕事、明日も頑張ろうって思えるし、やりがいがある。それに時間や季節で移り変わる田んぼや畑から見える景色が好きなんだ」


「千陽さんはやりたいことをみつけて、それを実践してるのが……私にはすごく羨ましいです」


 やりたいことをみつけるのはゆっくりでも良いんだよと言ってくれる千陽さん。でも私もやりたいことをみつけたかもしれない。


 私は私の道をみつけたかも……美味しそうにカレーを食べる千陽さんを見て、そう思った。

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