第61話
「おまえ、手を出さないって約束したって言うけどさ、大丈夫なのかよ〜?」
ニヤニヤと
先日の食事会はどうだった?と、聞かれていろいろあったことを話すと……そう言われてしまった。そこだけ話を切り取るなよ!とも思うが。
「まだ桜音ちゃんは高校生だし、両親には10歳上の怪しい男を信用してもらいたいからね」
「良い人ぶるなよー!」
本気で殴ろうかな?いや、蹴り倒すのもアリか?しかしやっぱり新太はわかりやすいことしか言わない。……思わずポロッと本音が出た。
「わかってる。なんというか、自分でも……良い人ぶりすぎたとは思う!ニッコリ笑って温厚そうな大人のふりをしてしまった」
「
その通りだ。その通りです。まったくだよ!
ガックリとその場でしゃがみ込む。
「うーん……でも仕方ないんだよなぁ。両親に反対されて付き合うのは桜音ちゃん、しんどいたろ?お母さんには少しずつだけど理解してもらうことできそうなんだけど、攻略が難しそうなのはお父さんなんだよなぁ」
新しい家族に頭が上がらないお父さん。家までとっていくとか……。実の娘なのに、どういうことだ?理解しにくい。一度会おうと思うけど、どう話をすればいいんだろう?
おーい!とじいちゃんが呼ぶ。今行く!と返事をする。
「田植えが始まるのかー。忙しいな。頑張れよ」
「そっちもな。年中、休みのない漁師も忙しいだろ」
「ま、お互い様だろ。時間あったら、また集まって飲もうぜー」
「ああ。わかった。じゃあな」
ハウスの中の米の苗に水やりをする。外の温度より暑いし湿度も高い。今日は気温が高いからビニールを開けておいた方が良いかもしれない。腕まくりをして、ホースを握る。
小さなツンツンとした草が青々としてきて、そろそろ植えてほしいと言っている。
『千陽さんと一緒に、この町にいたい』
そう言ってくれた言葉を思い出す。あの瞬間、本当に僕は泣きそうになった。僕の覚悟を桜音ちゃんは知らないはずだ。それなのに……あんなこと言ってくれるなんて思わなかった。どれほど僕にとって、嬉しい言葉だったか、きっと君にはわからなかっただろう。
苗に十分、水をやって、田んぼへ走る。軽トラの後ろには草刈り機。畦道の草刈りをする。
キィーンと高い音。草が跳ねる。地面に刃を近づけすぎないように気をつける。石を飛ばしてしまうと足の骨にヒビが入るくらいの威力があるらしい。
どんどん長い草を刈っていく。農地整備をしたから、広々としていて、終わりが見えないくらい遠い。この田んぼ1つで昔の田んぼ4つ分だ。栗栖家はこれが何枚もある。
果てしない畦道を草刈りしていく。夕方には腕も手も痛かった。さすがに今日は疲れてる。
軽トラの荷台に草刈り機を載せて、電話を見るとメールがきていた。
『ムーちゃんの散歩行ってます!今日は忙しいって聞いてるので、私、頑張ります。夕食もおばあちゃんと一緒に作りますから心配しないでください』
えっ?……えええっ!?これ桜音ちゃんだよね!?なんだかやる気まんまんのメール……誰だ?と思わずもう一度読み返すけど間違いなく桜音ちゃんだった。
ムー……散歩してもらってるのかー……羨まし……じゃなくて、助かったなぁ。
前よりも明るくて、元気な桜音ちゃんに嬉しくてアハハハと笑い声が出た。汗を首から下げていたタオルで拭う。
広い田んぼに赤い夕焼けの色が水面に映る。美しくて、僕はこの景色が好きだ。山の方に風力発電の白い羽根が見える。
明日も明後日も桜音ちゃんとずっといたい。この同じ景色を見ていたい。他の誰でもなく君と。
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