第56話
「
母さんがいきなり言い出す。な、なんだ!?リビングの椅子に座る。
「
「なんでわかるんだ!?」
母さんはニッコリ笑う。
「わかるわよぅ。最近、桜音ちゃんが
親からこんなことを言われるのは恥ずかしすぎる!
「からかうなら、もう行くからな!」
僕が席を立とうとすると、本題はここからよ!と母さんが止める。
「桜音ちゃんはまだ若すぎるわ。だからきちんとあちらの両親に挨拶しておきなさい。あの子の両親はちょっと難しい気がするし、あの子と上手くいってないわ。でもあんたは人の心の本質を見抜くことが得意だし……だから大変だろうけどなんとかできるでしょ?そこは自分で頑張りなさい。もちろん
いちいちそんなことを言われなくても、十分わかってる!と言いかけてやめた。母さんは僕より遥かに大人だ。それに確かに協力してもらうことは……これから必要だと思う。
「あと、まだ高校生ってこと忘れないようにね」
母さんが急須からお茶を注ぐ。湯気が出ているお茶を僕の方に1つ置いた。
「あ、これ
どこかのお土産らしい。いや、いらないけどと返事をする。
「えーっと……僕は……つまり……」
「高校生の間は手を出すなって言ってんの!」
説教されてた。
「いや、まだ、なんっにも手を出してないし、なにもしてないのになんでだよ!?」
「出してからでは遅いでしょ!?ご近所のことは前にも言ったけど、任せなさい。あんたらが付き合うことで、面白おかしく噂を流す人も出てくるでしょう。でもそんなもの、おばあちゃんと私でどうにでもできるわ」
情報操作か!?
「だけど、あんたが不誠実なことをしていたら、それもできないわ。……良いわね?」
キッと厳しい目つきで言われ、釘を刺される。
「不誠実な男になるつもりはないけど、わかった」
母さんが思ってるよりも僕は桜音ちゃんのことを大事にしたいと思ってる。そう言いたかったけど、さすがに親に向かって、そんな小っ恥ずかしいセリフは言えなかった。お茶をさっさと飲み干すと、午後の仕事へ行こうっと……と、立ち上がる。
今は両思いになれただけでもホントに……奇跡だから、僕はもう他に何もいらないくらい幸せに感じていた。
だけど、桜音ちゃんを幸せにするためには母さんが危惧している、あっちの両親が問題だ。あの熱が出た時、迎えに着た母親。家から追い出そうとする父親。
離れていて、桜音ちゃんの気持ちが見えていないのか、何度も踏みにじってきている。でもそれはきっと……わかりあえていないんだ。互いの気持ちが遠い遠い場所にいる。
春が始まった。外へ出る。雑草は強く、もう青々としている。そういえば、ばあちゃんが山の方のフキノトウがまだあるはずだから、フキノトウ味噌を作るって言ってたな。天ぷらも美味いよな……ぼんやりとそんなことを考えていた。
山にはタラの芽、わらび、たけのこなどの山菜が出てくる。春の味覚は美味しい。
うーんと僕は春めいた空気の中で、背伸びした。
一つ一つやってみよう。やっと手の届く距離になった月のような彼女のために。
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