第50話

 新しい年になり、もう3日たった。桜音おとちゃんに、ばあちゃんがぜんざいを作ったからおいでと連絡してみた。『食べたいです。行きたいです』とメールの返信が来た。桜音ちゃんはやって来たけれど、どこか変だった。


「美味しい!小豆から炊いたのって……なんだか豆の味が濃いような気がします」


 そう言って笑ってる。ばあちゃんも嬉しそうに彼女を見て、その小豆は一緒に分けたやつだよとニコニコしている。部屋の中は優しい小豆の煮た香りがする。


栗栖くるすさん、食べないんですか?」


 そう首を傾げて尋ねる桜音ちゃん。普通に話をし、普通に笑ってる。僕に対して……何かあって引いてるって感じや冷たさや避けてる様子などはまったくない。


 念のため、さり気なく聞いてみたけど、やはり夢だったのか、アッサリと返事を返された。


 だけど、なんだろう?この笑顔にはどこか違和感がある。


「あ、うん……」


 僕も返事をし、ぜんざいを食べる。焼いたお餅は香ばしくて、周りがパリッとしていて中ははお餅のモチモチ感があり、甘い小豆の汁に絡んで美味しい。たまきもやってきて、食べ始め、桜音ちゃんを見た。


新居あらいは体力なさそうだし、農作業なんてすぐに嫌になると思ったけど、わりと続いてるんだな。楽しいのか?」


「楽しいです。知らなかったこといっぱいあるし、体を動かすとご飯も美味しいし……」


「飯は確かに、体を動かしたほうが美味いな」


 環は無愛想なやつで、めったに笑わない。だけど桜音ちゃんの言葉に笑った。栗栖家は桜音ちゃんがきて、笑いが増えた気がする。


「そういえば、兄さんとこのとおるは?今日来るって行ってなかったか?」


 長男のいつきの小学生の息子は明日も来るからね!と確かに言っていた。


「それがねぇ。昨日、お年玉貰ったら、今日それを使わなきゃならない!と騒いで、買い物へ行ったよ。ついでに母さんも福袋見に行ったよ」


「あー、それで母さん不在なのか……」


 ばあちゃんが教えてくれ、僕は納得した。


「ぜんざいをありがとうございました。美味しかったです」


 ムーが桜音ちゃんの帰りそうな気配にワンワン!と鳴いて、まだ帰らないで!と訴えている。ムーはいつも自分の気持ちを素直に表現できて良いなぁ……じゃなくて。


「夕飯も食べて行けばどう?」


「大丈夫です。ぜんざいでお腹いっぱいなので、夕飯、そんなに食べれないです」


 じゃ、送るよと僕が腰を浮かすと桜音ちゃんはまた笑った。


「まだ明るいから大丈夫です。栗栖さん……いつもありがとうございます」


「え?いや……全然だよ。そんなに遠くないし……」


 ペコッとお辞儀して、桜音ちゃんは帰っていった。環がさて、夕寝しようっと……と部屋から出ていく。


「何だね?千陽ちはる、変な顔して」


「いや……なんか……何でもない」


「あの子は良い子だから、千陽、頑張るんだよ!」


「ば、ばあちゃん!?」


 ニヤリと笑ってばあちゃんは言った。


「私の予想じゃ、あの子はあんたに惚れてるね!」


「何いってんだよ!?そんなことわかるわけ………」  


「年の功を馬鹿にしなさんな!勘だよ勘!」


 そう言って自分の部屋へと帰っていった。


 栗栖家の女はやはり怖い。ばあちゃん、優しそうに見えるけど、実は強いんだよなぁ。


 それにしても、桜音ちゃんはやっぱりどこか変だ。なんというか、また上手く隠そうとする笑顔になっている。自分の感情を守るための無理矢理作る笑顔。それが彼女の防衛反応であることに僕は気づいていた。


 でもいったい何から守ろうとしてるんだ?もし先日のが現実で原因だったとしたら、栗栖家には僕がいるから来ないだろう。


 だから、それはやっぱり違う。何かを隠してる気がしたけれど、桜音ちゃんは話す気持ちになれないようだった。


 まだまだ僕じゃだめなのかな。僕に話せない理由があるのかな?そう思うと、やっぱり彼女までの距離は遠い気がするのだった。


 ……いや、僕が落ちこんでどうする?ここで諦めてしまったら、桜音ちゃんが悩んでることに力を貸せないじゃないか。


 こういう時はあいつがびっくりするくらい的確な答えをくれる。僕はメールを打つ。


新太あらた、飲める日無いか?』


『いつでも良いぞ。今も飲んでるぞー』


 一人で悩んでいても答えは出にくい。新太の性格上、情け容赦ない言葉を浴びせられる気がしたけど、今の僕にはちょうどいいかもしれない……。


 

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