第47話

 夢、夢だったのかな?今、桜音おとちゃんが自分の腕の中にいた気がした。まだ眠気の覚めないぼんやりとした頭。目をパチパチと瞬きさせる。


「ムー、見てたよな?今の夢?現実?どっちだった?」


 ムーはムクッと頭をあげて、何聞いてるんだ?とこっちを見てから、また頭をつけて寝た。こたつ大好き犬は、くつろぎ中で相手にしてくれなかった。


「いや……えーと、どうしたらいいんだ!?」


 なんてことしちゃったんだ!?いや、落ち着け!と自分に言い聞かせる。夢かもしれない。自分が寝ぼけていたのは間違いない。確認しようがないけど本人に聞けるか!?さりげなく聞く方法はないか!?


 桜音ちゃんにどうやって、確かめようかと考えたり、失礼なことしてごめんと謝るべきか!?の悩んだりしていると『年末年始は母のところへ行き、すごさなくちゃいけないのでいません。お餅つき楽しかったです。ありがとうございました。良いお年を』先に桜音ちゃんからメールが来た。


 ……やっぱり夢かな。でもなんとなく腕の中に温かさが残っていた気がしたんだけどな。


 あと……声も聞こえたような?『好きです。大好きです』って言われた気がして、びっくりして跳ね起きた。パタパタと足音が残ってた気がしたけど……寝惚けていて、どうだったのか自信がない。あああ!自分!なにやってんだー!と自分を叱りつけたい。


 桜音ちゃんが栗栖くるす家に来にくくなるようなことは絶対にしちゃいけないのに!

 

 でも桜音ちゃんのメール、普通だし、やっぱり夢だったんだよなぁ?そう思った時、じいちゃんが帰ってきた。


「桜音ちゃん、なんであんなに慌てて走ってたんだ?おまえ、変なことしてないだろうな?」


 しましたって言ったら殴られそう……いつも温厚なじいちゃんだけど、怒ると怖い。いや、でもしてない………よな?


「いや、してない………と思う」

 

 ジロッと僕を見て、疑わしそうだ。ダラダラと汗が出てくる。


 ちょっと待て?桜音ちゃんが、走って帰っていった?なんだか……それは、すごく嫌な予感しかしない。謝るべき?


『お母さんところから帰ってきたら、また連絡ください。良いお年を』


 慌てて、そんなメールをしてみた。『わかりました』と可愛いペンギンのスタンプ。うん。いつも通りだ。


 自分の願望だったのかな。そうかもしれない。


 はあ……とため息が出た。なんで、こんな夢を見ちゃったんだ?だんだん我慢の限界きてるのかなぁ?


 リップをつけてきたクリスマスの日、少し背伸びしてきた桜音ちゃん。わかってた。気づいていたけど、気づかないふりをしてた。それなのに新太あらたがあんまり可愛いを連発するから……あれは嫉妬心だった。桜音ちゃんを誰にも見せたくないって思った。


 うわあああ!あれもやりすぎた気がする!


 頭を抱える。僕の心が騒ぎ出している。騒いで騒いで……抑えられなくなってきてる。


 もし……もし桜音ちゃんが本当に好きって言っていたとしたら、僕は今、どうしていただろう?

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