第44話
「メリークリスマス……で、買い出しの手伝いありがとう」
クリスマスの午前中、
密かに
酒屋から先に買いに行くねと言って、栗栖さんは酒屋へ車を走らせた。
「え!?なに!?
後ろから声がして、振り返った。
「げっ……
よっ!と軽く手を挙げる。金髪の派手な不良っぽい人だった。しかし、よく見るとニコニコとしていて人懐っこい笑顔を浮かべていて、不良じゃないようだった。
「漁師の新太です!めちゃくちゃ可愛い子連れてるじゃないか!俺らも飲み会するんだけど、一緒に飲み会しない?いいなー!いいなー!オレもこんな子と飲みたい!」
漁師さんだった。飲み会ですか?と私は首を傾げる。
「行かないし、誘うなよ!」
即答している栗栖さん。
「あ……あの……はじめまして……
私はちょっと圧倒されて、名乗ることを忘れていた。
「桜音ちゃん、自己紹介なんてしなくていいから!」
「可愛いなぁ!……千陽、俺らのクリスマス飲み会断ってこっちの彼女かよ!わかるけど、ずるい!羨ましすぎる!こっちに連れて来いよー!」
「おまえ、調子に乗りすぎだろ」
栗栖さんが腕を組み、目を細めて睨みつけた。その様子に、慌てる新太さん。
「じょ、冗談!冗談だよ!?お、怒るなよ?おまえとは喧嘩したくない!」
「じゃあ、その減らず口を閉じてろよ」
また会おうね!可愛い桜音ちゃーん!と言うとお酒を抱えて、漁師の新太さんは店から出ていった。栗栖さんは男友達といる時はけっこう荒々しいんだと、やりとりに少しびっくりして見ていた私だったけど、ふと気づく。
「栗栖さん、もしかして、私がクリスマス会に来るって言ったので、友達との飲み会を断ってしまったのでしょうか?」
「良いんだ。いつでも飲めるから。あいつは……ホントに……」
ハァ……と重いため息をつく栗栖さん。
車に入ると、栗栖さんが、いきなり『ちょっとごめん』と言って……手の甲で私の唇に触れた。
えっ!?な、なにしたの!?今!?不意打ちで素早くて、その自然さに一瞬、理解できなかった。
「あんまり、可愛くしすぎないでほしい……ごめん、気になってしまって……」
私はフリーズした。ドキドキしてさっきの可愛いと言われてもまったく何も思わなかったのに、栗栖さんから可愛いと言われるとドキドキして何も言えなくなるくらいすごい効力があった。リップグロス気づいていたんだ。手の甲で拭かれた唇を意識してしまう。
お互いに顔を見れなくなってしまった。栗栖さんまで、恥ずかしそうにしていて、顔を赤くさせて車を発進させた。
スーパーでは何事もなく買い物をし、私と栗栖さんは栗栖家のクリスマス準備をする。栗栖さんはケーキを本気で焼いて、生クリームでデコレーションをしたのも、すごくきれいにできていた。お手伝いと言いつつ、私はたいしたことをしていない。野菜洗って、お皿をならべます……っていう程度である。
「とうとうこのレベルまで行ってしまったのね」
「兄貴、普通に美味いな。このケーキ。嫁に行けそうだな」
「変な褒め方するなよ!」
栗栖さんのお母さんと栗栖先輩が感心してそう言うが、もっと普通に褒めてくれよと栗栖さんが言う。クリスマスの夕食は、賑やかですごく楽しかった。
でも私の頭の中は栗栖さんに言われた可愛いでいっぱいだった。
サンタさん、今年のプレゼントは最高でした。私に最大級のプレゼントをありがとうと、思ったのだった。
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