第43話
「
腕に包帯?サポーターみたいなものを巻いている。
「いや、ちょっと……その……湿布してるだけだから。怪我じゃない。植菌をする時期は大抵こうなるんだ。
私の手には金づちと椎茸の菌。コンコンと開けた穴の中に菌を打っていくのが楽しい。ゴロンと丸太の原木を転がして、反対の方も打っていく。
「私がする量なら、面白くて、ストレス発散になります。栗栖さんほどの量はできません!」
ズラッとビニールハウスの中に並ぶ椎茸の木。ハウスの中はムワッとした暖かさがあり、椎茸の原木の匂いがする。
クリスマスの雰囲気って素敵!ロマンチック!と浮かれていた私が次の日に見たものがコレだった。栗栖さんはクリスマスどころではなく、椎茸と戦い中だったらしい。
しばらくすると、栗栖さんのお母さんがひょっこり現れた。
「ねえねえ!桜音ちゃんはクリスマス何か予定あるの?家に来ない!?」
は!?と栗栖さんが驚く声をあげた。
「いや……うちのクリスマスって、ただ鶏肉の料理にケーキ食べるだけなんだけど?」
申し訳無さそうに栗栖さんが言う。
「予定あるなら、良いけどないなら、一緒に可愛い子とケーキ食べても良いじゃない?
「だもんって……何歳なんだよ!?母さんが一緒に過ごしたいのかよ!?」
お母さんとのやり取りを聞きつつ、私は控えめに答える。
「あ、あの……お邪魔ではなければ……行きたいです」
「えっ!?いいの!?クリスマスっていうか、ホントに食べるだけの会なんだよ!?ただのケーキがついた夕飯なんだ」
ハイと私は頷く。
「誘ってくれてありがとうございます」
ヤッターと……なぜかお母さんが喜んでいる。栗栖さんがいや、そんなんでよければ良いんだけどさ……と首を傾げる。
「じゃあ……今年はケーキ焼こうかな」
『えっ!?』
私とお母さんの声が重なる。
「あんた……デコレーションケーキ作るの!?」
お母さんすら驚いている。
「栗栖さんのケーキ、食べてみたいです!」
まさか、ケーキまでできるなんて……栗栖さんは分量とやり方さえきちんと守ればお菓子作りは失敗しないよと笑う。料理人の才能がある気がした。
「よし、じゃあ、せっかく来てくれるし、はりきろう」
「すっごく楽しみになってきました。私、お料理のお手伝いに行きます。これも頑張ります!」
私が意気込んで、菌入れをまた始めると、栗栖さんが、いや、無理しないで!と自分の腕を見せつつ慌てて、言うのだった。
クリスマス……まさか一緒に過ごせるなんて!夢みたいだった。ハウスの暖かさだけじゃないホカホカとした感じが心の中からした。
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