第42話
もうすぐクリスマスがやってくる。
「可愛い物、欲しい物がたくさんあるのに、高校生の力では買えない!
カフェで休憩していると、そんなありえない話を言い出す友人。
「茉莉ちゃん……私と栗栖さんはそんな関係じゃないもの」
そう言いつつ、なんとなくクリスマスのロマンチックな雰囲気の中、一緒に歩く想像をチラッとしてしまう。そんな時が来たら、ホントにホントに……嬉しいのにな。
「栗栖さんにとって、私は全然子供にしか見えてないもの」
茉莉ちゃんがニヤニヤした。
「そんな桜音に私からプレゼント!高いものじゃないけどね……」
私に!?きちんと包装された小さくて、四角い物が渡された。
「えっ?ええええ!?茉莉ちゃんから!?私、何も用意してない!」
「良いのよ。桜音を応援したいというささやかな気持ちよ!」
応援?と首を傾げて、私が箱を開けてみると、薄いピンク色のリップグロスが入っていた。
「フフッ。普段まったく化粧とかしないでしょ?でも桜音は、この色、似合うと思うのよね。クリスマスに向けて、ちょっといつもと違う雰囲気を出すのよ!」
「気持ちは嬉しいんだけど……つける機会がないと思う」
「むしろ機会を作りなさいよ!なんかないの!?」
茉莉ちゃんはすごい。私には持っていないパワーと迫力がある。
「二人になることは最近はめったにないし……」
ほぼ栗栖家だし、農作業につけていくのも違うし……と、戸惑う私に茉莉ちゃんはニッコリ微笑んだ。
「チャンスは待つものじゃないのよ?作るものなの!」
具体的にどうすればいいのかわからなくて、う、うん。と気弱に頷くしかなかった。
「チャンスはあるかわからないけど……茉莉ちゃん、私のために考えてくれて、プレゼント、ありがとう」
「日頃の課題とテスト勉強を教えてもらったお礼よ。気にしないで!……桜音、今回のテスト良かったわよね。ホントに進学はしないの?頑張ってるのに?」
「しないわ。頑張っているのは成績のためじゃないもの……」
一人であの家に住んでいられるように栗栖さんや友達と離れたくない……ただそれだけのためだ。学校でも問題ないように過ごしている。文化祭の実行委員は大変だったけど、先生から褒められたから、良い生徒になれてるはず。
私ができるのはそのくらいだもの。傍にいれるために今、できることはそのくらいしかない。なんて高校生って無力なんだろう。大人になれば変わるかな?
クリスマスは去年から考えないようにしてきた。父と母は……それぞれの好きな人とすごしたくて、そんな話が私の耳に聞こえてしまった。
もちろん、二人は居てくれようとした。でも断ったのは私だった。クリスマスなんてそんな重要じゃない。クリスマスプレゼントだけちょうだいとふざけて笑って言った気がする。一人でも大丈夫だって、友だちと過ごしたほうが楽しいって嘘ついて……。今年はもう聞いても来ないだろう。
雑貨屋さんに売られていたクリスマスのオーナメントに触れる。赤い服を着たおじいさんは私には来なかった。素直で良い子のところにしか来ないのだ。
栗栖さんから何故かクリスマスを飛ばし、『年末に餅つきするから、来る?自家製餅米のつきたてのお餅は美味しいからおいでよ!』……なんてお餅つきのメールが来たから笑ってしまった。
クリスマスに、これだけ盛り上がってるのに!なんで!?と言う茉莉ちゃんの声が聞こえそうだった。
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