第40話
文化祭は無事に終わった。終わってからすぐに、テストがあり、ハードなスケジュールだったけど、なんとか乗り越えた。
私は
「
「そんなことありません。私が役立てることなんて少ないし……なにかできることがあったらって思います。後、なにげに小豆を分けるの夢中になっちゃって、楽しいです」
小さくて、コロンとした丸い体のおばあちゃんは、こんな根気のいる仕事、楽しいかねぇ?と首を傾げる。
「私、今までしたことがなかったことが多くて、してみると何もかもが新しくて楽しいです」
「そうかい。したことない人の方が農業は楽しめるのかもねぇ。朝から晩まで働いて、天候に左右されて、努力が報われない年もある。大変な仕事だけどね」
確かにと頷く。おばあちゃんは手際よく木の棒で叩いて小豆を莢から出していく。私はそれを拾って選別する。
「そう言えば、六人兄弟なんですよね?他の人は……」
おばあちゃんは手を休めること無く話をしてくれる。
「一番上の
「ええーっと、覚えきれたか心配です」
アハハハとおばあちゃんは笑う。
「そのうち顔を合わせれば自然と覚えるよ」
私はせっせと虫食い小豆を箱に入れていくが、おばあちゃんの速度には敵わない。うますぎる……。
「まぁ、問題は多少あるけど、どの子も良い孫だよ」
「栗栖さんの家はみんな温かい人ばかりなので、わかります。私、すごくすごく羨ましいです」
おばあちゃんがニヤッと笑う。
「名前を聞いて気づかなかったかい?」
え?何がだろう?名前?
「長男以降は女の子が欲しい!って
そういえば!?でも……と、私が困った顔をすると、おばあちゃんかそうなんだよと頷く。
「男しか生まれなかった!と、いうわけで、桜音ちゃんが家の娘のようで、可愛いんだよ。皆、そう思ってるよ。だから遠慮なく過ごすといいよ」
……私は顔を赤らめた。こんな素敵なことを言われるなんて思いもよらなかった。
「……泣いてるのかい?」
私は自分でも気づかない内に涙がでていた。
「最近の私はずっと透明人間だったんです」
父と母は新しい生活に忙しくて、私は置物の人形のように、そういえば居たような?と、時々思い出すような存在だった。それを自覚するのも怖かった。
言いつけは守り、父母の負担にならないように、煩わしい存在にならないようにしようと一生懸命だった。私はもういっそ透明人間になりたかった……だけど、そう思う度に私は苦しくてたまらない。
苦しくなる度に、どこか壊れてしまった人形のように、呼吸がしにくくて、頭痛がしてきたり、お腹が痛くなったりし、体が思うように動かせなくなる。
「いるようでいない私にそんなふうに言ってもらえる価値があるのかはわからないんですけど、嬉し涙です。すいません。急にこんな泣いて……」
おばあちゃんを困らせてしまった。だけど、おばあちゃんは泣いてる私の背中をさすってくれた。それが余計に涙がでてしまって止められなかった。
「いっぱい泣きなさい。今まで泣きたいけど泣けなかった分もあるだろう」
そう言って、本当の祖母のように背中をいつまでも温かい手でさすってくれたのだった。
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