第37話
お芋の掘り残しが無いか見たり、同じ大きさのお芋にサイズを仕分ける作業を黙々としたりするのをささやかながら私もお手伝いする。
「こっちの商品にならないやつは家用と……あ!
「こ、これは!?何年分ですか!?」
「すごいだろ?ムーがさつま芋、けっこう好きだから食べるけど……毎年、残して腐らせちゃうからさ、持ってってほしいんだ」
遠慮するところでは、ないのかもしれない。本気で栗栖さんは困った顔をしていた。
「えっと……いいんですか?ありがとうございます。お芋大好きです」
お芋は採れたてよりも、しばらく置いておくと甘みが出るらしい。一つ一つ新聞紙に包んで一人分にしては多いお芋がダンボールに入れられて、台所の隅っこに置かれた。寒さに弱いから暖かい部屋に置いてねと言われたのだった。
何日か置いてみたけれど、ソワソワして待ちきれない私はとうとうお芋に手を出してしまった。
煮ているだけなのに、フワンと甘い香りが部屋に漂う。
黄色いお芋を潰して行く。裏ごししたほうがなめらかかな?と迷ったけど、裏ごししないと、お芋のホクホク感の美味しさがあるので、そっちにしよう。そこへ生クリーム、砂糖を足す。楕円形の形にし、アルミカップの上にポンッと置く。
卵黄をお芋の上に塗っていく。オーブンへ入れて、しばらく焼くとこんがりとした焼き色がついた。部屋の中は甘い香りがもっと強くなった。
出来上がったのは黄金色のスイートポテト。焦げ目もついて美味しそうに見える。シルクスイートという品種らしく、普通のお芋よりも黄色くてねっとりとしている。さつま芋にいろんな品種があることも初めて知った。安納芋のほうが甘味がもっとあるらしいけど、収穫量が少なくて、けっきょくこっちを植えたんだと栗栖さんが説明してくれた。
私の知らないことばかりで、農業って色んな知識が必要で、純粋にすごいなって思ってしまう。
「うん……すっごく美味しい!お芋の品種のせいなのかなぁ?」
前に作ったものより美味しくできていると思った。それとも自分も手伝ったから?
私はフフッと笑う。また一緒に畑にいることができて嬉しかった。彼女というものには、まだなれないし、そんな対象に見てもらえてないのかもしれない。でも今は欲張らずにいたい。こんな時間を過ごせていることが奇跡だと思う。あの修学旅行の時に帰ってきて、会いたいと思ってこぼした涙を思い出す。
パクッともう一口食べる。甘い味が口の中に広がり、幸せを感じる。
栗栖さんのお家で一緒にご飯を食べたり、一緒に家までの距離を歩いたり、私はもうそれだけで幸せな気持ちになってしまう。そして、あの温かな家で育った栗栖さんが困ってた私を放っておけなかったことが、なんとなくわかる。あのお家の人たちはとても優しくて温かい。
今日の夕飯のデザートにスイートポテト持って行ってみようかな。栗栖さんの方が絶対に上手なんだけど、大丈夫かな?そう思いながら、栗栖家みんなの顔を思い浮かべ、作り始める私だった。
「美味しい!スイートポテトも良いわね」
「家は焼き芋をすることが多いんだ。お菓子も良いね!」
スイートポテト作ってみましたと言うと、栗栖さんのお母さんと栗栖さんが先に味見をする!と言って、夕食前なのに、二人で嬉しそうに食べている。その姿はよく似ていて、私はフフッと笑ってしまう。
ムーちゃんがお芋の匂いに気づいて、ほしい!とジャンプしている。栗栖さんがしかたないなーと冷蔵庫からムーちゃん用のさつまいもを出してきて、あげている。
「ムーも採れたてのさつまいもがうまいらしくて、少しでもさつまいもの気配がすると……こうなるんだ」
クルックルッと回って喜ぶムーちゃん。
「ムーちゃんも美味しいのがわかるんですね。私も我慢できなくて、ついさつま芋に手を出してしまいました」
「そうよね!さつま芋、もうちょっと置いておいた方が甘味も増して美味しいのに、つい手を出しちゃうのよねー。わかるわー」
「母さん、すでに焼き芋してみていたからな……」
「
どうやら、私よりも早い人がいたらしい。
アハハハと明るい声が部屋に響く。その声になんだ?なんだと集まってくる人達。
なんで、泣きたくなるような気持ちになるんだろう。こんなに幸せな光景なのに……。
……そうだ。私はずっと嘘ついて、我慢してた。一人でやっていけるし、大丈夫!なんて嘘だった。こんな明るくて温かい家族の中にいて、泣き虫で甘ったれの子供の自分でずっといたかったのだ。
でも子供じゃだめなこともある……早く大人になって、栗栖さんに振り向いてもらいたい。早く大人になったら、私のこと彼女候補として見てくれる?なんだか急に欲張りな私が出てきてしまった。
栗栖さんは私の視線に気づくとニコッとして美味しいよーと笑いかけた。
きっと欲張りになっちゃうのは、この栗栖さんの笑顔のせいだと思った。
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