第35話

 栗栖くるすさんが夕方、ムーちゃんの散歩がてら迎えに来てくれた。


「一緒に行こう!」

  

 ムーちゃんは一緒に散歩してくれる人が増えて、嬉しくて尻尾をピョコピョコ振って歩く。栗栖さんの家まではそんなに遠くはないけど、迎えに来てくれて良かった。やっぱり一人でお邪魔するのは緊張する。


大きなテーブルが台所の横の部屋にあった。ズラリと並ぶ椅子に私は圧倒される。今日使うのは7席だけど……最大で10席もある!?


「うわぁ……親戚が集まるお祭の日みたいです」


 私の言葉に栗栖さんのお母さんがすごいでしょーと笑う。


「まだ家の横の別宅には長男家族がいるから、全員揃うと大変よ。さて、おじいちゃん、おばあちゃん、父さんも座ってー!たまきも夕飯よー!」


 バタバタ、ガタンと音がして、それぞれの部屋から集まってくる。リビングの方にいたお父さんの方は栗栖先輩に似ていて、背が高く、無口そうな人だった。新聞を置いて、ニュースを消し、飲みかけのビールを片手に座る。


 おじいちゃんは日に焼けていて、腹減ったなぁとどこかのんびりとした人で、ニコニコしてやってきた。おばあちゃんは来ると、冷蔵庫からご飯のお供の昆布の佃煮や野菜の浅漬けを出してきた。


 私はそこ座ってとお母さんに言われた場所へちょこんと座る。栗栖さんの隣でホッとした。斜め前には栗栖先輩がいる。茶碗から溢れんばかりの大盛りご飯を自分で盛り付けている。やっぱりよく食べるなぁと思う。


「新米だから美味しいよー」


 ご飯をよそってくれて、お弁当を持ってきてくれた栗栖さんと同じことを言うおばあちゃん。新米はやはり別格らしい。私はありがとうございますと茶碗を受け取る。


「この昆布の佃煮、自家製だったんですね。美味しかったです」


「おや?気に入ってくれたんだね。夏はよく昼にそうめんをするんだけどね、大量にその素麺の出汁をとった後の昆布が残る。それを利用して作っているんだよ。干し椎茸も自家製だよ」


 なるほどーと私は再利用していることに感心して頷く。昆布と椎茸の佃煮を真っ白で艷やかなご飯の上にのせる。


「おかずもちゃんと食べるのよ」


 栗栖さんのお母さんが焼き魚と刺し身を並べていく。そして酢豚!?


「魚と肉!?……なぜ2つもメインが!?私、た、食べれないかもしれません」


「少しだけ酢豚も食べなさいな。野菜も食べないと!」

 

 酢豚は野菜という位置なのね……と思い、ハイと私は少しだけお皿によそう。


 栗栖先輩が魚だけじゃ物足りないとボソッと言った。確かに栗栖先輩とか栗栖さんはいっぱい食べるし、そうかもと納得する。


「漁師の友達から今日、魚をいっぱいもらったんだ。明日のお弁当はアジフライにするからね」


 それも美味しそうですと私はニッコリした。


「楽しみにしててね」


 私にそう言って笑う栗栖さん。


「いっぱい食べるのよ?桜音おとちゃんは痩せすきだと思うの。だから毎日家に来て、夜ご飯は一緒に食べない?」


「ええっ!?毎日!?それはとても図々しくて、迷惑です!ダメです!」


 栗栖さんのお母さんの提案に私は驚く。


「高校生はまだ子供よ。栄養しっかりとれないでしょう?それに家に1人で置いておくのは心配だもの。家は1人増えたところで全然大丈夫なんだから、遠慮なく、ドーンといらっしゃい!」


 ドーン……と?いう効果音は頼もしいけど……私が困っていると、お父さんがボソッと助け舟?のような事を言う。


「好きな時にくればいいだろう?千陽ちはるがムームーの散歩のついでに誘ってくれば良い。どうせ散歩コースなんだろう」


 おじいちゃんもそうだそうだと頷く。


「いつでもおいで。1人で気楽な時もあれば、1人でご飯食べるのが嫌なときもあるだろう?」


 ハイ……ありがとうございますと私はなんだか、とても温かくて、子どもとして大事にされてるような気がして、照れつつ返事をしたのだった。

 

 帰りは近いから1人で帰れますと言ったけれど、栗栖さんが、送ってくよと言う。申し訳ないことだって思ってるのに、嬉しくて、それが顔に出ていないか心配だった。


 帰り際に栗栖先輩が……そういえばと言う。


「お守りありがとうな」


「え……?あ、はい。どういたしまして……です?」


 前にもお礼を言われたけど?と思いつつ私は首を傾げた。玄関のドアを開けようとした栗栖さんの手が止まっていて、私はどうしたんですか?と聞くと、なんでもないよとぎこちない笑顔が返ってきたのだった。

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