第34話
「おはよう!会えて良かった」
私は電車の時間を戻した。
「はい。お弁当!あれから体調は大丈夫?」
「大丈夫です。ホントに、栗栖さんの家にはお世話になってしまってごめんなさい。お弁当、もしかしてずっと作ってくれていたんですか?」
今日から普通授業になる。私も熱が下がったので、学校へ行く。……しっかりしなきゃ。学校へ行って、頑張らないと。ここを離れて、お母さんと新しい家に行くことになっちゃう。
私が避けていた間も栗栖さんはお弁当、作ってくれていたんだと申し訳ない気持ちになった。
「お弁当、食べてくれると嬉しいんだ。作りがいがあるというか……今日、顔、こわばってるよ。……なんかお母さんに言われた?」
なんで栗栖さん気づくのかな!?私は驚いて目を見開いてしまう。
「い、いえ……」
「言いたくないなら言わなくて良いんだ。大丈夫だから。えーと、母さんが、夕飯食べに来いって言うんだけど」
「えっ!?これ以上迷惑をかけれません!」
私の言葉にクスッと笑う栗栖さん。
「『迷惑だと思っていたら誘わない!カワイイ娘がちょうど欲しいと思っていたの。絶対にくるように!』……って伝言。うちの母さんは無理矢理なところあるから、嫌なら断っていいよ」
栗栖さんのお母さん、なんか私のこと見抜いてる気がするのは何故なのかな?なんで私が迷惑だからと、断ることわかってるの!?先を読まれている。
お邪魔します。お願いしますと私は言った。栗栖さんがニコッと笑った。
「じゃあ、来るって言っておくよ。今日のお弁当のご飯は新米なんだ!栗栖家のお米を食べてみて!」
「新米!?それは楽しみです」
いってらっしゃいと前と同じようにムーちゃんと見送ってくれる。二両しかない電車に乗る。
うん……この距離が栗栖さんとはちょうどいい。心地良い距離だと思う。多くは望まない。こうやって、顔を見れるだけで、きっと贅沢なことなんだと思う。
私は修学旅行のお土産を渡そうと思っていた。栗栖さんにも買っていたけど、カバンに入れたまま渡せなかった。どうしよう……あげてもいいのかな?
10歳年上の人に恋してるなんて、お母さんに気づかれたら大変なことになる。栗栖さんにも迷惑がかかる。それこそ明日からでも新しい家に連れて行かれてしまうだろう。
電車は景色を流してゆく。海がすぎて、鬱蒼とした木々の間を通り抜けるように走っていく。
「……へぇ。それで?栗栖さんの家に泊まって、お母さんに怒られて連れて行かれそうなのね」
「
ピカピカの新米にちくわの青のり揚げとカレー揚げ、ほうれん草入りの玉子焼き、甘いかぼちゃのレーズン入りサラダ、湯むきトマトの甘酢漬け、昆布としいたけの佃煮。どれも美味しそう……だけど、茉莉ちゃんが見てみなさいよという答えが落っこちているようには思えない。
「えっと……なにかな?」
「愛情と栄養たっぷりのお弁当に見えるんだけど?桜音がお母さんと一緒に行くのは嫌だと言えば栗栖さん助けてくれると思うのよね」
「そ、そんな迷惑を栗栖さんにかけれない!」
「まだ私達、子供なんだから良いじゃない!そこは可愛く甘えるのよ!女子高生というカテゴリは武器なの!」
また変なことを言い出したけど、茉莉ちゃんの言いたいことはわかる……ような?気がした。
「あっちが大人だと言うなら、こっちは子供を武器にするのよ!……お弁当食べたら、そのランチバックにお土産物を忍ばせておくの!メモ付きでよ?良い技でしょ!?」
「武器!?技!?」
そんな会話をしながらお昼休みは過ぎてゆく。
新米ご飯は冷めていても美味しかった。口に入れると粒がツルリとしていて、お米の味がふわりと香る。
茉莉ちゃんの面白い熱弁は私を勇気づける。夏がそろそろ終わろうとしている。そんな青くて高い空の色が窓から見えた。
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