第28話

 修学旅行は9月の半ばで、新学期が始まった!……と、思ったらすぐに一大イベントはやってきた。


 移動中、私は眠くて仕方なかった。茉莉まりちゃんや他の友達がキャッキャと車内で騒ぐ中、一人だけうたた寝をしてしまった。


 ……夜、ぐっすり寝れないので、少し体がだるい気がするのだった。


 考えなければいいのに、やっぱり栗栖くるすさんはどうしているかな?とかムーちゃんと駅の方まで今も散歩に来てるかな?とかメール来ないかな?とか何度も電話の画面を無駄に見てしまう。


 このまま呆気なく終わっちゃうのかな?栗栖さんに忘れられちゃうのかな?そう思うと、寝れなくなるのだった。


桜音おと、大丈夫?」


 着いたよーと起こしてくれる。かなり寝てたらしい。


「ごめん、起こしてくれてありがとう」


「体調悪いんじゃない?」


 茉莉ちゃんが心配するが、大丈夫といって、みんなと一緒に観光をする。


「天神さんのお守りは、よう効きますよ」


 北野天満宮で頼まれていた受験のお守りを買う。修学旅行生がたくさんいて、お守りを買ったりおみくじをひいたり……あの学生たちは受験生なのか、真剣に絵馬を書いている。私にはもう受験の物は必要ない物だ。


 学生が多いけれど、そこまではしゃぐ人もおらず、神社らしい静けさもあった。


「受験のお守り買うの?」


 茉莉ちゃんが興味津々だった。私は肩をすくめる。適当に頼まれたようなもので、冗談だったかも……と思っていたからだった。


「栗栖先輩が受験のために買ってきて欲しいって……」


「栗栖先輩ってうちの学校の付属大学に野球の推薦で確定って話だけど?」


「え?やっぱり……冗談なのかなぁ?」


 せっかく買ってしまったので、私はカバンにしまって、どちらにしろ、あげようと思った。茉莉ちゃんがフフフフフと怪しい笑い声をだした。


「栗栖先輩ってね……もしかして、桜音のこと好きなんじゃないの?」


「そんなわけないでしょ。もっと親しい女子はいるでしょ」


 栗栖先輩の私への態度はどう考えても好きな人に対する態度ではないと思う。


「栗栖先輩はそんな冗談でお守り買ってきてよ〜ってなんとも思っていない子に頼まないと思うけどなぁ。桜音、大人しくて美少女イメージだから、モテるのよ。本人はまったく気づいてないけど」


 前もこんなふざけたことを友人は言っていたような?しかし私は額に手を当てる。


「告白されたこともないし、男子から特別扱いされたこともないわ。大人しい美少女って誰のことなの!?」


 私をニヤニヤと指差す。


「この修学旅行で告白されちゃうかもよー?」


 そんなことあったら、驚きすぎて熱が出そう。茉莉ちゃん、私を元気づけようとしてるのかな。そんな明るい友人がいて、良かったと私は微笑んだ。


 清水寺へ行く。意外と本殿に着くまでは歩かなきゃいけなかった。でも歩いていく坂道にはいろいろ名物が売っていて、楽しく歩ける。


「清水の坂って、いろいろあるのね」


 私は売っていた焼き立てのパリパリのお煎餅を買う。茉莉ちゃんは揚げたての豆腐ドーナツ。


 ここが清水の舞台なのね!?と、高さに驚いたり、音羽の滝で上から流れてくる水を柄杓で受け止めたりしたものの、お寺を見るのはそこそこにして、ついお土産物屋さんを覗いてしまう。


「学生さん、どこからきはったん?」


 親しげに声をかけてくれるお店で茉莉ちゃんが、他の友達に聞こえない声で私に言う。


「それで、本命の栗栖さんにはお土産、買ったの?」


 会ってないことを話していない……。う、うん。と私は曖昧に返事をした。


「……最近、うまくいってないんでしょ?お土産、口実に仲直りしたら?」


 茉莉ちゃん!?なんでわかるの!?私が驚いて顔を見るとアハハハと楽しそうに笑った。


「なんで?って聞かないでよ?だって、元気がずーっとないし、体調も悪そうなのに無理してるし、早く仲直りしちゃいなさいよ!」


 うんと私は頷いた。喧嘩したわけじゃないけど……。他の友達がいるから、それ以上茉莉ちゃんに話さなかったけど、やっぱり会いたいなと思ってた。とても迷っているけど……。


 秋の夕暮れは夜を連れてくるのが早い。秋は釣瓶落としとはよく言ったもので、あっという間に暗くなった。


 坂を降りている途中、振り返ると三重の塔がライトアップされて、月とよく似合っていた。綺麗だけど、どこか物悲しくて寂しい気持ちになる風景だった。


 栗栖さんどうしてるかな?とふと思い出す。写真を撮って送りたくなる。電話に触れるけれど、勇気が出ない。……この月を一緒に見れたらいいのに。

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