第27話
新学期になった。9月だけど暑い……私は
ひまわりが種の重みで下を向いている。その向こう側には海が広がっている。田んぼは黄色に揺れる穂が重そうで、ところどころ稲刈りを終えた田があり、赤や青のコンバインが点々と置かれている。秋らしさが出てきた電車からの景色を窓からボンヤリと眺めていた。
学校に、早く着いてしまう。コンビニに寄ったり、教室で本を読んだりして過ごし、時間を潰すことにする。
もしかして駅で私が来ないことを知らず、お弁当作って、待ってるかもしれない……ムーちゃんと栗栖さんが私の姿を探すことを思い浮かべると、なんだか切なくて、悲しくなった。でも自分で時間をずらして会わないと決めたんだからそんなふうに感じるのは変なことだと思う。それに待っていないかもしれないし……。
まだ蝉の音が響く校庭を窓から見た。野球部が朝練をしている。キンッと金属バットでボールを打つ音がした。
紙パックのコーヒー牛乳を私は飲みながら、ため息を吐いた。神様は不公平だ。あんな美人な人に太刀打ちできない。私と栗栖さんをせめて同じくらいの歳で同じ学校に通わせてくれたらよかったのにな。
じわりと涙が滲む。まだ泣いてはいけないと自分に言い聞かせる。だって……まだ栗栖さんの口からは何も聞いていない。確実に彼女なんだろうなって思うけど、栗栖さんの口から聞くまでは、まだ失恋してないと、思いたい。
だけど、あのメールから一度も返事を返せずにいた。何度も返そうと思って画面を開くけど、できない。
少しずつ教室に人が増えてくる。久しぶりー!どうしてた?今日から学校とかやる気でない!なんて夏休みが終わる残念さより、久しぶりにクラスメイトと出会ったことが楽しいらしく、ガヤガヤと賑やかな教室。
「
おはよう。久しぶりと私は挨拶した。
「何よ!暗いわね。夏休みが終わっても、すぐ修学旅行あるじゃない!?元気だしていこー!」
茉莉ちゃんはそう自分に言い聞かせている。そうだねと私は笑ってみせる。今日も私は笑えてる。それが嘘の笑顔でもなんでもいい。今は強がっていたい。泣くことになるってわかっていて、栗栖さんのことを好きになったんだから。
下校時間になり、図書室に寄ってから帰る。図書室には夏休み中借りていた本を返す人がいて、まあまあ人がいた。明日からの本を数冊借りてから帰る。
外に出ると残暑の中、まだ蝉たちの声はカナカナカナと鳴いている。日差しをさけて、日陰を歩く。坂道を下って駅へ向かうと逆に坂道を登ってきた人が居た。
「今、帰るのか?」
栗栖先輩だった。ランニング中だったようだ。そのまま行ってしまうかとおもったけれど、素通りせず、足を止めて、私に話しかけてきた。なぜか、後ろめたい気持ちになった。
「あ……はい。部活してるんですね」
「野球、続けるから練習に参加させてもらってる。あのな………いや……今年の修学旅行ってどこ行くんだ?」
何か言いかけてやめる栗栖先輩。
「京都と大阪です」
「ふーん。お土産に受験のお守り頼む」
「えっ!?……はい。そのくらい良いですよ」
受験の
「
帽子をキュッと被り直して、じゃあなーと走っていく。
なんで?栗栖さんの機嫌が悪いんだろう?私はその一言が気になったけれど、聞き返せなかった。気になってるくせに避けている自分、失恋までの時間を伸ばしているだけにすぎない自分……本当に臆病だ。
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