第19話

「ごめん、女の子一人の家に行くなんて非常識だし、どうしようかと思ったけど、気になってしまって……」


 タオルを渡すと濡れた顔や手を拭く。ムーちゃんは栗栖くるすさんのレインコートの中にいたらしく、無事だった。


 停電も一瞬で、今は皓々とついている。やっぱり明かりがあるとホッとする。……明かりだけではないかもしれないけどと、来てくれた栗栖さんを見る。


「来てくれてありがとうございます。ホントは……怖かったんです」


 私はそう言って、薬箱から湿布を取り出す。


「怪我したの!?」


 慌てる栗栖さん。私は転んだことを言うのが恥ずかしかったので、慌てていて、ぶつけましたと言う。ヒョイッと私の手から湿布を取り、どこ?貼るよ!と言う。


 は、貼るって!?ええええ!?と私の心は焦っていたが、栗栖さんは真顔だった。


「えっ……ええっと……膝です」


 赤くなっているところを見せると、栗栖さんは、ホントだとしかめっ面をし、ピッと湿布の紙を手慣れた感じで外して、そっと足に触れてた。それだけで、私の心臓の鼓動が早くなる。ペタッと手際よく貼ってくれる。……なんとなく恥ずかしくなったのは私だけらしい。


「他に怪我はしてない?」


「してませんっ!」


 慌てて否定する私。これ以上は心臓が持たない!


 テレビをつけて台風情報を見る。ソファにどうぞと私が言い、栗栖さんはうんと言って、座る。


「あれ?桜音おとちゃんは座らないの?」


 と、隣に!?私が立ったままでいると、ムーちゃんを指さして笑う。


「ちょっとムーが面白いから、隣に座ってみてよ」


「ムーちゃんが?」


 私はポスッと隣に座ってみる。肩が触れそうで触れない距離にドキドキする。しかし、それは一瞬だった。シュッとソファに飛び乗ってきたムーちゃん!


「えっ!?ムーちゃん!?」


 グイグイと私と栗栖さんの真ん中に入ってきて、どーんと座った。アハハハと栗栖さんは声を上げて笑う。


「……これは、もしかしてヤキモチですか?」 


「ムーは自分が真ん中に入りたがるんだ。除け者扱いするな!って感じかな。おもしろいだろー?」

 

 確かにと私もクスクス笑ってしまう。ムーちゃんを撫でると満足そうに目を閉じて、私と栗栖さんにくっついて眠る。


 そんなムーちゃんを見ていたら、栗栖さんも眠くなってきたらしく、ウトウトしている。


「台風通過したら帰るし、後、何かあったら起こして……今日、畑の台風対策したら疲れちゃってさ……ごめん、限界で……」

 

「ごめんなさい!お客さん用のお布団は干してなくて!……私のベットを使いますか!?一昨日干したばっかりですから!」


 慌てる私に栗栖さんが眠い目をしつつ、苦笑した。


「いやいや、ソファで十分。あのさ……男の人にそんなこと言っちゃだめだからね。何かあったら、叩き起こして……」


 そう言うと、パタッと電池の充電が切れたかのように寝てしまう。私はえ……?と一瞬考え、自分の発言にカーーーッと顔が熱くなる。そそそそそんなつもりじゃなかった!


 私は起こさないように、洗ったタオルケットの予備はあるので、出してきて、そっと栗栖さんにかける。


 ムーちゃんはタオルケットが出てくると、ポンッと上に乗り、栗栖さんの足もとで丸まって寝る。可愛くて、ヨシヨシとムーちゃんを撫でて、おやすみと小さい声で言う。


 栗栖さんは本当に疲れていたらしくて、寝息をたてて、ぐっすり寝ている。そんな中、駆けつけてくれたのだと思い、私はジッと顔を見た。


 色素の薄い茶色の髪に触れて、ムーちゃんにするように撫で、日焼けして温かい頬に指先を這わせる。


 ハッとして、手を引っ込め、慌てて自分の部屋へ帰ってドアを閉めた。今、何をしちゃったの!?


 風や雨音のことはすっかり忘れてしまっていて、自分の大胆さにドキドキして、なかなか寝れなかったのだった。

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