第18話
『大型で非常に強い勢力の台風に注意してください。上陸の時間は………』
テレビから聞こえる天気予報。今夜は台風らしい。完全に暴風域の輪の中に入っている。
懐中電灯、ろうそく、ラジオ……これで良いかな。一人だから、念のため用意しておこう。家が飛ばされることは無いかもしれないけど、停電になったら怖いし……。
『
とりあえず、今日は早めに夕食食べて、お風呂に入ってしまおう。いつもより行動を早くする。
お風呂に浸かっていると、ゴオッと一瞬風が強く吹いた。風が出てきた。……でもこんなものなのかな。やっぱり大丈夫そう。
お風呂上がりに冷蔵庫からよく冷えたミネラルウォーターを出して、飲む。強い台風って言っていたけど思っていたよりもたいしたことなく終わりそうで良かった。
そう思った瞬間、雨音は強くなり、風の音が激しくなってきた。パッと一瞬、光が室内に射し込み、ドーンッと重々しい雷の音が響いた。ビリビリと窓ガラスも家も振動した。
思わずしゃがみ込む。突然で、すごくびっくりした。怖くて、恐る恐る顔をあげるが、また再びパッと光り、思わず目を閉じ、耳を塞ぐ。3回目で、フッと電気が消えた。停電?
落ち着いて!大丈夫!ちゃんと用意してあるもの。リビングのテーブルに置いた、懐中電灯を取りに行こうと立ち上がり、手を伸ばすが、自分の脱いだスリッパが足元にあることを忘れていて、ガタンッとつまずいて転ぶ。膝を打ち付けてしまう。痛くて涙がでそうになる。油断してた。
また雷が鳴り、雨はバタバタと大きい音で風と共に窓を打ち付ける。怖い。立ち上がれない。
ふとお父さん、お母さんを思い出した。一人はやっぱり嫌なの。どうしてあの時、一人でも良い。大丈夫だよ。平気だよって言っちゃったんだろう?
『どっちに着いてきても良いんだよ』最初に二人はまず、そう言ってくれた。でもどちらかなんて選べなかった。
それに当初は一週間に一度、母は見に来てくれていた。『また来たの?』『そんなに心配しなくても大丈夫』『いちいち言われるとめんどくさい』気にして欲しいくせに……そんな心にもないこと言って、母を遠ざけ、冷たくしたのは私だったと思い出す。
ぜんぜん大丈夫じゃない。すごく一人は怖いの。私って、どうしてこんなふうなの?強がって、一人で、なんでもできるなんて、意地張ってるだけで、本当は何もできないのに。
パタパタと涙が溢れて落ちる。怖くて、不安で、自分で一人でも良いのと選んだ選択肢すら疑い、後悔してしまう。
お父さんやお母さんに助けを求めたいけど、二人は遠くに住んでいる。今すぐ来てほしいって頼んでも来れないだろう。こんな時、たぶん助けに来てくれるのは一人しかいない気がした。
「
そう小さく呟いた。もしかして、助けてほしいのって、お願いしたら来てくれる?でもすごく迷惑なことだよね。連絡しても良いって言ってたけど……子供じゃないって突っぱねたのは私だ。
人の好意も善意も素直に受け取れない自分。どうしてだろう。こんな自分を好きになってもらおうと思うほうが図々しいの?
……ガタン!ドンッ!ドンッ!と音がして、思わず、キャアと小さい悲鳴が出た。
え?でも今のは雷じゃなかったような?玄関から音がした気がした。痛む膝をさすって、立ち上がり、懐中電灯をなんとか手にする。片足を引きずりつつ、玄関に行く。
「桜音ちゃーん!いるー!?」
ドンドンッと扉を叩く音。栗栖さんの声!?ワンワン!という鳴き声……ムーちゃん!?慌てて、扉を開けると風や雨粒と共に、栗栖さんとムーちゃんがなだれ込むように入ってきた。
「すごい台風だよね。大丈夫?怖くなかった?」
栗栖さんは農作業用の厚手のレインコート、ムーちゃんはカエルのレインコートからポタポタと水を滴らせている。
「だい………いえ……はい……すごく怖かったです。なんでわかったんですか?連絡してないのに……」
私は大丈夫ですと言おうとして止める。ちゃんと……ちゃんと素直に言おうと思った。だって、栗栖さんにはわかってしまうもの。
懐中電灯の灯りだけの暗い玄関で、栗栖さんはニコッと明るい笑顔を見せた。
「桜音ちゃんのことは、なぜかわかっちゃうんだ」
冗談なのか本気なのかわからないことを言う栗栖さんだった。
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