第17話

 夏休みの学校の図書室は静かで、少し薄暗く、私と茉莉まりちゃんしかいなかった。


「なるほど……こうなるのね……」


 私のしてきた夏休みの課題を写しながら、ぶつぶつ言ってる茉莉ちゃん。いきなりメールしてきて、課題をしてあるか確認された。切羽詰まってきたらしい。


「このお礼にお昼はマック奢るから!ちょっと待ってて!」


 必死で頑張っている。私は図書館の本を読みながら待っている。 

 

 野菜の勉強をしたかったからちょうど良かった。学校の図書室に置いてあって、誰が興味を持ち、見るのかは謎だったけど『野菜の時間』『初心者にもわかる野菜の育て方』などの本があった。


「私も茉莉ちゃんに相談したいことあったから、別に良いよ」


 そう言いつつ、パラパラとページをめくる。野菜ってこんなに種類あるのね……と思う。じゃがいもはメークインと男爵しか知らなかった。


「相談!?桜音おとが珍しいこと言うわね。それは興味があるわー。さっさと終わらせてマックに行くわよっ!」


 必死で茉莉ちゃんが終わらせたにも関わらず、夏休み中のマックは混雑していたので、私達はクレープ屋さんにする。


「ポテトスペシャルとコーラ1つお願いします」


「プリンクレープにバナナトッピングして、アイスティーお願いします」


 茉莉ちゃんはフライドポテトにレタス、マヨネーズケチャップを合わせたクレープ。私は甘いプリン。対照的な私達。


「桜音、甘いの好きね~」


「茉莉ちゃんも相変わらず、毎回、同じやつ!」


 フフフッと顔を見合わせて笑う。クーラーが効いた涼しい店内に座り、クレープを食べだす。


「……で、相談ってなんなの?」


 興味津々で茉莉ちゃんが聞いてくる。私は言おうかどうしようか……自分から相談したいと言ったくせに、一瞬迷ってしまった。でも自分一人の中で疑問を持ち続けるのは限界だった。静かに私が言うのを待つ茉莉ちゃんに口を開く。


「茉莉ちゃんは年上だったら何歳くらいの年の差なら恋愛対象になると思う?」


「え?なにそれ、唐突ね~。私なら……うーん、5歳か6歳年上くらいまでかな?そのくらいまでなら、話も合いそうだし、恋愛対象として見てくれそうって思うけど?」


 半分ほどになったクレープに目を落とした。やっぱりそのくらいなのかな……栗栖さんとは10歳差。子供としか見えないし、ましてや恋愛対象になんて思えないのかな?


「……もしかして、桜音は年上の人に恋してるの?」


 鋭い……私はウンと静かに頷く。キラッと茉莉ちゃんの目が輝いた。


「桜音が恋をしたの!?そっかー!良いじゃないの!私、いつか桜音から、そんな話を聞きたいと思ってたのよ!まったく興味なさそうだったから、恋バナは諦めてたけど」


 興奮して言う茉莉ちゃんはぐっと力を入れすぎて、手に持っていたクレープの具のポテトが出てきてしまい、慌ててパクッと食べている。


「でもね……すごく年上の人で、私は見たことないんだけど、遠距離恋愛の彼女もいるみたいなの……望みは薄いの」


 現実を口にしたら、ほんとに望みは少なく感じた。


「それでも好きなのよね?」


「諦めなきゃって思ってはいるのに、できなくて、どうして良いのかわからないの」


 茉莉ちゃんがそっか……と言って、優しい声で続ける。


「たとえ諦めなきゃいけない恋でも、叶わない恋でも、私は桜音の味方でいて、応援する!」


「やめといたほうがいいよって言わないの?」


「だって、桜音がそんなふうに諦めたくないって思うのは珍しいもの。よっぽど特別で、好きなのかなって。私はそんな桜音の変化が嬉しい」


 茉莉ちゃん……と私は心に染みてくる言葉を聞いて、涙声になる。百人くらいの味方がいる気持ちになる。


「とりあえず、年上って言うけど、どんな人か見てみたいわね!オジサンっぽいの?イケオジ?カッコイイの?そこ大事よね!外見で判断しちゃいけないかもしれないけど、けっこう重要じゃない!?」


 ………茉莉ちゃん。


 友人は私に無いものを持ってる面白い人だと思う。

 


 

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