第13話
ゆったりと青い水槽の中を大きな魚やエイ達が泳いでいく。魚を見ようと思っても、時々、隣にいる人を意識してしまう自分がいる。
「すごいなー。エイかな?マンタかな?」
「……エイじゃないでしょうか?あっ!サメ!?」
シュモクザメって言うらしいと
回遊する水槽へ行くとスーパーの魚コーナーでみかけるいろんな魚がいた。
「おおーっ!立派な鯛だなぁ」
「お魚屋さんみたいな言い方ですね」
「友達に漁師がいてさ、たまに魚を貰うんだよ……こないだの花火もそいつらと行ってきたんだ。船を出してくれてさ。桜音ちゃんも誘いたかったけど、男ばっかのむさ苦しいところに呼ぶわけにも行かないしさー」
こないだの花火大会!?私が電車から眺めていた時の!?私は男同士だったのか!と思い、なんだかホッとしたような拍子抜けしたような不思議な気持ちになった。
「私、栗栖さんがいるなら、行きたいです」
「女子高生連れて行ったら、本気でやつらはだめだ!あの悪友共に、僕は可愛い桜音ちゃんを見せたくない!」
断固拒否の姿勢らしい。可愛いと言われて、また照れてしまう。免疫ない私には可愛いの言葉は刺激が強すぎる。
「ここ、ヒトデや貝、ウニに触れることができるらしいですよ」
海の生き物とふれあえるタッチプールのところには子供たちが恐る恐る触ったり、得意げに持ってみたりしている。
「ヒトデ、なんかムニュムニュした感触です」
「ウニ触るのって、なんか痛そうで緊張するね」
私と栗栖さんも子供たちに負けず、もれなく楽しんだ。
「そろそろイルカショーかな!?行こうか。その前に売店寄って、冷たい物食べながら見ようか?」
私より栗栖さんの方が水族館を楽しんでいる気がするけれどなんだかそれが嬉しかった。義務的に仕方なく来たわけじゃないんだと思った。
「そうしますか。屋外は暑いですよね」
「えーと、ごめん、楽しみすぎてるよね」
私も楽しいです!と言うと、パッと明るく嬉しそうにな表情になって、そっかー!と笑う。なんだかムーちゃんに似てる。飼い主に似るってホントかも。
「バニラシェイクにしよう。桜音ちゃんは?」
「私も同じのにします」
暑いし、ソフトクリームだと溶けてしまうから、バニラシェイクは確かに良い案だと思った。
「えっと……お金を……」
栗栖さんが払ってくれ、慌てる。
「今日は全部僕の奢り。畑のお手伝いのお礼だって言ったでしょ?」
「でもお弁当だって作ってくれてるし、こないだなんて迎えに来てくれて……畑のお手伝いはそのお礼ですし……」
「お礼のお礼ってことで!」
そんなの意味ないですって言う私にハイハイ行くよーと、取り合わず、歩いて行く。
イルカショーを見て、ペンギンやカメやアザラシも見て、お昼ごはんは漁師の友達がオススメしていたという冷やし中華があるお店だった。栗栖さんは大盛りで!とはりきって注文していた。ハム、錦糸卵、トマト、キュウリにワカメの具だくさん。暑い日にぴったりで、ちょっと酸味のあるスープが美味しかった。
「辛子とマヨネーズつける派なんだよね」
「私もマヨネーズ入れます。まろやかになりますよね」
「そうそう!そうなんだ!」
そんな他愛ない話をして、あっという間に時間は過ぎていく。帰りに売店に寄る。
「これ可愛い……」
ステンドグラスのような透明で青いイルカの栞。買おうかなと迷っていると、ヒョイッと栗栖さんが私の手から栞を奪う。
「じゃあ、これは記念に買おう」
「だ、だめです!自分で買います」
「大人の男ぶらせてよ。水族館、楽しみすぎて、僕の方が子供っぽかった気がして、今さら恥ずかしくなってきてるんだから!」
その言い方に、私は思わずプッと吹き出して笑ってしまう。
「なんだか、今日はしてもらってばかりで……ありがとうございます」
「桜音ちゃんはもっと図々しくなっても良いと思うよ」
そう優しく言ってくれ、私の手に栞の入った袋を乗せた。栗栖さんは優しすぎる……ギュッと栞を胸の前で握りしめた。
また軽トラに乗って帰る。楽しい時間はあっという間。
「枝豆食べる?いらないかな?いっぱいあるんだー。茹でたて最高なんだよ」
「大好きです。欲しいです」
じゃあ、栗栖家に寄って行くねと言う……初めてのお家!?誰かに会ったらどうしよう!?感じよく挨拶できるかな!?心配でドキドキした。こんな時、自分が、社交性のある人なら良かったのに!と思う。
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