第6話

 それからも栗栖くるすさんと会った。朝にムーちゃんとお弁当を作って持ってきてくれたり、私は空いてる休日の時間に手伝いと言うにはおこがましい程度のことをしたりして、会うことが少しずつ自然になっていった。


 衣替えの今日、栗栖さんは夏服に気づいてくれるかな?白い半袖のセーラー服に紺色の薄い生地のプリーツスカート。随分、服装が涼しくなった。


 いつもより念入りに髪の毛にブラシをかけ、まっすぐの髪になるように、アイロンを当ててみたりした。


「おはよう!あっ……こら!ムー、やめろ!」


 茶色の毛並みのムーちゃんが一番に気づいたのかもしれない……嬉しそうに駆けてきて、私に撫でてー!とジャンプしてくる。栗栖さんがおいっ!と慌ててリードを短くする。ヨシヨシ、おはようと私が撫でると満足できない!もう一回撫でてー!とスリスリしてくるムーちゃん。


「危ないところだった。ムー、汚したらどーするんだよ!落ち着けよー!」


 ムーちゃんに栗栖さんがそういうけど、嬉しさを全身で表していて、可愛い。


「あれ?衣替え?そっかー、今日から6月かー、早いなぁ」


 気づいてくれた!私はムーちゃんに一瞬なったかもしれない。嬉しくて顔に出ちゃったかも。


「そうなんです。今日から夏服なんです」


「その制服の学校へ僕も行っていたんだ。ここの駅から電車に乗ってね。懐かしいなあ」


 フワフワとした笑い方をして、栗栖さんは言った。


「先輩なんですね」


「そうだよー。最近、電車に乗らないけど、電車から見える景色、好きだったな。広い田んぼ、海、まっすぐに伸びる道、風力発電の羽根が回る景色……」


 遠い目しながら、やっぱり懐かしいなー!と言う。


「私はあまり意識をしたことがありませんでした。確かに景色、素敵かもしれません」 


 栗栖さんがそうでしょ!?と得意げに言う。いつもの青色の2両しかない電車が来た。 


 いってらっしゃーいといつもの明るさでムーちゃんと見送ってくれる。


 私は電車に乗り、立ったまま、ぼんやりと外の流れてゆく景色を眺めた。栗栖さんが見ていた景色を私も同じように見ているんだ。


 電車が通るとザアッと緑の田が揺れる。小さな踏切をいくつも越えてゆく。真っ直ぐな農道を一台の黒い車が走っているのが小さく見えた。梅雨の曇り空を映す海は濁った青色をしている。誰が植えたのか、紫陽花が道路の横に咲いている。『準備中』の看板のうどん屋さん。


 一緒に見たかったな……そう思いながらガタンゴトンとリズミカルな電車の音を聞き、窓の外を眺め続けた。なんだか今日は電車から見える田んぼも海もどこか特別に感じたのだった。


 そう、お昼のお弁当は『スナップエンドウのたまごサラダ、さやえんどうとひき肉の炒めもの、唐揚げ、ひじきの煮物(さやえんどう入り)』


 それを見た茉莉まりちゃんは言った。


「なんかになりますようにって願掛けでもしてるの?」


 ……たぶん、採れすぎて困ってるんだな。来栖さんが、『豆だらけだー!』そう悩んで作る姿を想像して、クスクス笑ってしまったのだった。

 

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