第3話

 次の日の朝は容赦なくやってくる。授業についていけなくなるから、ちゃんと行かなきゃ……鉛が入っているような重い足取りで駅のホームへ向かう。手に持ってる鞄が重く感じる。


「オーイ!待って!」


 え?と私が振り返ると、ムーちゃんと栗栖くるすさんだった。


「これ!昼食に食べて!僕のお弁当のついでに作ったんだ。気にいってもらえるか、わからないけど」


 拒否権は無い!とばかりにグイッとランチバッグを渡される。勢いで受け取ってしまう。


「お、お弁当!?」


「朝ごはんにしてもいいし、お昼ごはんを用意してないなら昼食にしてもいい。けっこう僕ののお弁当好評なんだ。学校、いってらっしゃい!」


 色素の薄い目をニコッと細めて手を振る。私は驚いたが、もう電車が来ている。早く乗らないと遅刻だよ!と栗栖さんの言葉も後押しする。アナウンスが鳴り始めたので、慌てて乗り込む。


 なんで……お弁当?私は久しぶりの手作りのお弁当の重さのあるランチバッグを手に学校へと行ったのだった。


『アスパラベーコン巻き、新玉ねぎのピクルス、唐揚げ、ブロッコリーのおかか和え、梅と昆布のオニギリ』


 メモが挟まっていた。友達の茉莉まりちゃんが一緒にご飯食べよーと言って私の机に来た。椅子は自分のところから持ってきた。私がお弁当を開けると、うわぁと声をあげた。


桜音おとのお弁当美味しそう!自分で作ったの?」


「……もらった」


 は!?と聞きかえされたが、パクッとピクルスを食べたから、返事はしなかった。新玉ねぎのピクルスは甘酸っぱくてスッキリとした味で美味しかった。


「美味しい……」


 他のおかずも美味しかった。アスパラも歯ごたえがあるのに、柔らかくて塩っぽいベーコンと合う。人が作ったオニギリなんていつぶりだろう?


 パタパタとお弁当箱に涙が落ちてゆく。


「ちょ、ちょっと!?なに泣いてるの?やっぱり体調悪いんじゃないの?」


 茉莉ちゃんが心配する。違うの。この涙は苦しい涙じゃない。私の涙を見て、慌てる友人にどう説明していいかわからなかった。


 次の日の朝、私は洗ったお弁当箱を返した。ムーちゃんを抱っこして、26歳の大人の男の人なのにドキドキしてまるで告白前の女子のような表情で私に聞いた。素直に感情が顔に出る人だなぁと思った。


「美味しかった……かな?」


「……全部食べました」


「はああああ!良かったーっ!すっごいお節介で迷惑なオジサンで、ごめんね……余計なことをしてしまった!と思ったんだけどさ」 

 

 ムーちゃんで顔を隠す仕草が可愛い……女子力が私より高めな気がする栗栖さん。


「これ、今日の分ね!」


「今日のも!?そんな……」

 

 私が首を振るとダメだよと言った。


「もう作って来てしまった。野菜はうちの農園のを使ってて……野菜は被っててごめんね。今日も玉ねぎ入ってる。玉ねぎの時期だと永遠に玉ねぎ続くんだ。もうそろそろ豆が続くから覚悟しておいてよ」


 たくさん採れるからさーと笑う。


「ほら、電車来たよ!いってらっしゃーい!」


 ムーちゃんの手を持ち、バイバイとする栗栖さん。私はペコリと小さく頭を下げて、行く。


『玉ねぎの辛子焼き、玉ねぎたっぷりハンバーグ、ミニトマト、梅と昆布のオニギリ』


 ホントだ。玉ねぎをたくさん使ってるとクスクス笑ってしまった。

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