第2話
あれから度々、出会った。
パラパラとベンチの上の屋根に雨が音をたてて落ちてくる。ビニール傘を被り、ひょっこり現れた……カエル!?ではなく、カエルのレインコートを来たトイプードルのムーちゃん。
「かわいい!ムーちゃんのレインコート、カエルなんですね」
頭に被るとカエルの目がピョコッと出ている。
「ムー!褒められたな。やったな!……でも服を着るのは本当はムー嫌いなんだよ。雨に濡れるから仕方なく着てる」
彼は笑って、抱っこしてムーちゃんを見せてくれた。いつも人懐っこいムーちゃんはハッハッハッ!と舌を出して笑っているような顔をしている。撫でると尻尾をパタパタ振った。
またある日、やっぱり電車に乗れなくて、ベンチに座り込んでいた時だった。
「なに?お腹痛いの?大丈夫?」
「いつものことなので……」
そっか……と言いつつ、ムーちゃんがくるくる回っているリードを片手で持ちつつ、隣座っていい?と聞きながら、私の返事は待たずに、そっと座った。足元ではムーちゃんが忙しなく動いている。
「僕は
「確かにそうですね。ムーちゃんが先になっちゃった。私は
「あっ!やっぱり新居さんとこの子だ!たぶんそうかなあって思ってたんだ。近所だから、前から知ってたんだけど、早いなー。もう高校生なんだなー」
「え……!?」
「栗栖農園の息子だよ。次男の……知らないかな?歳、けっこう離れてるから知らないかな。でも農園は知ってる?」
ご近所付き合いをあまりしない私だけど、その農園は知っていた。大きな農園で、この辺ではスーパーや道の駅で栗栖農園の名前入りの野菜をよく見かけるからだ。
「農園は知ってます」
「良かった!不審者じゃないって……一応証明しておかないとって思ってたんだ。僕は朝、こうやって犬の散歩してて、桜音ちゃんが、ここで座ってるのを見て、どうしたんだろうって気になっていたんだ」
そうだったんだと私は納得する。近所の人だから、声をかけてくれたのかと。
「朝ごはんは食べた?体調悪いなら、食べてないの?」
「いつも食べないし……」
「えええ!?なんで!?」
「めんどくさくて。一人だから……」
「一人って……両親と住んでいたんじゃなかった!?」
栗栖さんは近所の人なのに噂には疎いらしい。でも男の人が興味のあるような話じゃないかなと思った。
「私の両親は一年前からいません。一人で住んでます。二人共出て行って、今はお互いの新しい家族と過ごしてます」
え?と目を丸くする彼。私は笑って見せる。この話をする時、笑顔を作ることがうまくなった。友達、知り合いなど、もう何回も説明したからだ。
「お互いに好きな人ができたんです。いい歳して、いつまでも子どもみたいな両親でしょう?困ったものです。私はもう高校生だし、一人でも大丈夫だから、せっかく受かった学校に行きたいし、一人で住むことにしたんです」
けっこう気ままで楽しいですよと言うと栗栖さんは立ち上がった。
「そっか……僕、そういう近所の噂とか疎くてごめんね」
そう言って、ちょっと困った顔をして、ムーちゃんと歩いて行ってしまう。めんどくさい話に巻き込まれたくない……そんな反応。わかりやすい。
ズキズキするお腹を抱えて、今日はもう学校へは行けないから家へ帰って横になった。シンと静まった家で一人、過ごすことは嫌ではない。むしろ……言い争う声も怒鳴り合う声もしないからホッとする。一人の時間は好きな方だと思う。
いつからだったかな……体調が崩れだしたのは……?
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