22.ガラスの靴
「お姉様.........私も舞踏会に行きたい......」
「ダメよシンデレラ!」
「あなたは黙って部屋の掃除でもしていなさい!」
「そんな......」
薄暗い会場を照らす
観客達の視線が俺に向けられているのがわかる。
やべっ、泣けそう。
演技なのにーー義理姉役の二人に
俺は今シンデレラを演じている。
ホールを埋め尽くす老若男女の前で、
だが中途半端は恥の
成功させるしかない。腹に力を込めて台詞を発する事に集中する。
「私も舞踏会に行きたいっ!」
「泣かないでシンデレラ。私が舞踏会に連れて行ってあげるから。そーれ!」
青のローブに身を包んだ魔法使い役の茜が魔法の杖を振ると、
みすぼらしい服の下から現れたドレス。そして置かれたガラスの靴に足を通す。
すげ、ピッタリかよ。
この短時間でよく調整したな。
「美しいわシンデレラ。さあ、カボチャの馬車に乗って舞踏会に行きなさい。12時になると魔法が解ける。必ず12時までには帰るのよ!」
茜の台詞と同時に舞台が
何だかんだで夢子の練習に付き合ったおかげで何とかクライマックスまでやってこれた。
この後は舞踏会のシーンだ。
そういえば、夢子とは台詞合わせはしてたけど、実際の衣装は見ていない。
暗転したステージを切り裂く一筋のライト。
「ああっ! 麗しの君!」
ライトに照らされ現れた王子様に、会場が沸き立つ。
中性的な容姿、美しい立ち姿。
予想外のかっこよさに固まった俺に歩み寄った夢子が腰に手を回してきた。
「僕と踊っていただけませんか?」
「よ、喜んで.........」
か、顔がちけぇ! 夢子の顔、直視できない......って、何照れてんだオレは!?
てか、そんなことよりも、
(夢子! 俺、踊れないんだけど!)
目と鼻の先にある夢子に小声で伝える。
この次は踊りのシーン。さすがに踊りまでは練習してない。
(大丈夫ー! 私に任せて)
パチンとウインクした王子様が俺の手を引き、踊り出す。
鳴り出すバックミュージック。ステージを目一杯使ってのダンス。
「上手いじゃん雄二」
「.........うっせぇ」
正直、夢子についていくので精一杯だ。
上手くいってるのかわからんが、湧き上がる拍手から察するに、なんとかなってるんだろう。
そう思った瞬間だった。
足元から聞こえた何かが折れる不吉な音。
ド派手な音と共にステージに転んで理解した。
ガラスの靴のヒールが折れたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます