22.シンデレラボーイ




 ふざけんな。

 ふざけんなふざけんなふざけんな。



「.........よしっ! これなら、行ける!」


 

 よしっ。じゃねぇよ!


 メイクセット片手に、鏡に写る夢子がウインクしながら空いた方の手で鏡越しにサムズアップしてきた。



 鏡に写る俺は俺なんだが、俺じゃなかった。



 アリスとは違う、濃いブロンドの偽物の髪。


 化粧のせいかパッチリと開いた大きな瞳。

 

 まつ毛は文字通りマッチ棒が乗りそうなぐらい長く、顔に影を落としている。


 そんな俺の周りを取り囲んだクラスの女子どもが、口々に感想をこぼしてくる。



「か、かわいい......」


「女の私より可愛い、だと?」


「まー素材いいから、女装も似合うって事かなー?」


「なんというか、似合うものね。凄いわ、雄二君。これなら何とかなりそうね」



 鏡に映り込んだ女子に混ざった茜が驚いたような表情を向けてくる。



 自分で言うのはなんだが、鏡に写る俺は美しかった。


 

 美しい......んだけどさぁ!



「待て! 俺はまだ出るとは言ってないぞ!」


「雄二っ! もうこれしか方法がないの!」


「うるせぇ! さっきから楽しそうだなぁ夢子ぉ! 大体アリスの体調はどうなんだよ!? そろそろ回復したんじゃないのか!?」



 笑顔で俺の手を掴む夢子の口の端が、わかりやすく吊り上がった。



「アリスはよっぽど回復しないと思うわよ。日本に来たばかりで、慣れない食べ物をあんなに沢山食べたら、そりゃお腹壊すに決まってるでしょ」


「まさかおまえ、それわかっててアリスをほっといたのか?」


「さあ? でもアリスがああなったのは、確実に雄二の監督不行かんとくふいき。諦めなさい」


 

 女子達が夢子の言葉に何度も首を縦に振って頷いている。



「............」



「あっ! 逃げた! みんなっ! 雄二を逃さないでっ!」



 逃げようと暴れると、夢子の掛け声と共に女子達に四肢ししを拘束されてしまう。



「離せっ! 離せぇえええっ! 監督不行!? そんな理由、納得できるかぁあああっ!」


「くっ......往生際おうじょうぎわが悪い。誰か男子をっ! 坂梨君を呼んできて!」


「やめろぉおおおっ! くそっ、離せぇええええっ!」


「おい女子達! 何やってんだ!」


 

 現れた和馬がこんな格好だからか、本気で王子様に見えてしまった。



「ふぇっ......和馬ぁ......助けて......女子が......夢子が酷いんだ......」



 やべっ、助かりそうな安心感で目頭が熱い。


 俺と目が合った王子様の目がいつもの倍ぐらい見開かれた気がした。



「おまっ......本当に雄二、なのか?」


「そうだよっ! 夢子に無理矢理化粧されてシンデレラにされたんだ! 何とか言ってくれぇ!」



 和馬の視線が俺から何故か得意げな表情を浮かべる夢子に移る。



「どう? 坂梨君。私のメイクアップ術は?」


「.........感服かんぷくいたしました」


「なに深々頭下げてんの!? 早く助けろ和馬! 和馬ぁ!」


「アリスがあれじゃ、俺たちのクラスの出し物が出来なくなる。がんばれ雄二。その.........大丈夫。可愛いぞ?」


「なに頬赤らめてんだ! キメェんだよ! ボケェエエエッ!」


「諦めなさい雄二。クラス委員でしょ? クラスの為に人柱になるの。さー! 本番前の最終台詞合わせやるわよ! おもしろくなってきた!」



 クソほど楽しそうな笑顔を浮かべる夢子を俺は睨みつける以外の手段で反撃することができなかった。


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