15.夢子のドッキリ 解答編②




訪れる静寂。


 京香さんが置いたティーカップの音がリビングによく響いた。



「雄二君、夢子はあなたの事が好きみたい」


「は、はあ......」


「それも物心ついた時から。目に入れても痛くない可愛い一人娘が急に取られたみたいで、親としては複雑な気持ちだったけど、最大限応援してあげる事にしたわ」



 笑ってる。

 けど、きっと内側では笑っていない。そんな表情。



「あの子、事あるごとにずっとあなたにアタックしているみたいだけど、中々実らないのは何故かしら? 高校もあえて別々になろうとしてたみたいだし。ねぇ雄二君、あなた夢子のこと嫌いなの?」



 最早、目の前の京香さんの表情に1ミリも笑顔は残されてちない。

 ......だがこの際だ、はっきり俺の気持ちを伝えるいい機会なのかもしれない。



「嫌いじゃです。むしろ好きです。大切な存在だと思っています」


「じゃあなんで? 私、二人の恋仲応援してるのよ?」



 表現を崩さない京香さんに首を横に振る。



「正直、夢子は妹に近いんです」


「妹?」


「はい。だから好きって気持ちは恋愛感情というか、家族に向けるものに近い気がします」


「......つまり恋人飛び越えて、既に家族の関係にまで来ちゃってるってこと?」


「はい.........え? いや、京香さん? そう言うわけじゃなくて......」


「なあんだ! それならそうって言ってよぉ! お母さん変な心配しちゃった! 二人の仲は順調ってことね?」


「は.........?」


 じゅ、順調? 順調ってなにが?


 怖い怖い怖い。

 笑顔に戻った京香さんが今何を考えてるかわからない。



「雄二君、私の事はお母さんって呼んで」


「何で!? 呼ばないよ!? てかどうすればそういう解釈になるんですか!?」


「うふふ。照れないで! ねぇご飯食べてくでしょ? 待ってて。あとちょっとで完成するから!」


「えっ。えー......」


「残念だったわね」



 不意に背後から掛けられた声に心臓が口から飛び出そうになって、ソファーから転げ落ちる。



「夢子!?」


「なにそんな驚いたみたいな顔してるの? ここ私の家だよ? あ、お母さん、私も手伝う」


「ちょっと待って!」


 キッチンに向かって一歩踏み出した夢子の手を掴む。


 奥できゃっと黄色い声を上げる京香さんはこの際無視だ。



「その、後でちょっと話いいか?」


「うん、私も話したい事あるからいいよ。ご飯食べ終わってから話そ」


「おう」


「.........ねぇ雄二、聞こえちゃったんだけど、そんなに私が雄二と同じ高校に入れた理由知りたいの? 前にも言ったけど、別にそんな驚く理由じゃないよ?」


「つっても、知りたい。気になるし」


「補欠合格」


「え?」


「合格した人が入学を辞退すると定員数に空きが出て、追加で合格できる制度のこと。それを使ったの」


「あら、雄二君知らないの? 受験した高校が不合格になると、二次募集に申し込めるのよ」


「二次募集......」



 そんな制度がある事自体知らなかった。



「私は受かった女子校の入学を辞退して、雄二の高校が出した二次募集に応募した。そして無事合格したってわけ」


「理屈はわかるが、そんな都合よく辞退者なんて出るのか?」


「高校受験だからね。普通は出ない。でも......」



 クスリと笑う夢子の表情に背筋に寒気が走った。


 

「一人、辞退すればいいってだけの話でしょ?」



 

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