14.夢子のドッキリ 解答編①




 億劫おっくうだ。


 おおよそ隣人りんじんとは思えない、立派な門構えの一軒家を見上げる。


 SAKURAGIとアルファベットで書かれた表札の下の呼び鈴に指をかけて、かれこれ五分が経過しようとしている。



 ーーねぇ、私の事、そんなに嫌い?


 ーー雄二の事が、好きっ! 大好き!



 まだ今日の出来事を自分なりに消化し切れていない。


 今会ったとて、何を話せばいいのか正直わからない。


 でもこのままズルズル引きずっても......なんて中途半端な気持ちでここに立っている。


 こんな事、幼馴染を十五年やってきて初めてだ。



「.........やっぱ、明日出直すか」



 夢子ん家、くせが強過ぎて慣れた俺でも一回入るとドッと疲れるし。



「あら、雄二君?」


 

 娘に似た少し高めの可愛らしい声が背中に届く。



「京香さん......こんばんは」


「こんばんは。夢子に用事?」


「......まあ、そんな所です」


「その顔と歯切れの悪さから察するに、夢子とケンカでもした?」



 ズバリの指摘に居心地が悪くなって思わず視線を地面に向ける。



「ふふっ。そんな事だろうと思った。あの子も出かけて帰って来てからずっと部屋にこもっちゃってるし。あ、ごめんねっ! 立ち話も何だから入って入って!」


「おじゃまします」



 はっきり言って、夢子の家は苦手だ。


 気はのらないが、この状況で帰るという選択肢は生憎持ち合わせていないので笑顔の京香さんに会釈して重厚感のあるドアをくぐる。


 出迎えてくれたのは見たことのない不気味な調度品の数々。


 何でも、親父さんの趣味で定期的に海外から調達しているらしい。


 苦手の理由はこれじゃない。こういった物は昔から見慣れているので、特に驚かない。



「雄二君、コーヒーでいいかしら?」


「あ、ありがとうございます」


「いいわよ〜。あ、適当にくつろいでてね! すぐ淹れるから」



 京香さんに頭を下げてリビングのソファに腰掛ける。


 苦手の理由はこの、リビングだ。

 

 桜木家以外の人で、この部屋でくつろげる人間がいるなら、是非会ってみたい。


 床以外、見渡す限り、ありとあらゆる場所が夢子の写真で埋め尽くされている。


 親父さんの趣味そのニが写真撮影だとしても、この数は異常。


 しかも定期的に飾る写真を更新しているようで、行くたびに写真が変化している。


 狂気。


 これはそれ以外の何でもない。



「あー......また、夢子の写真増えました?」


「さすが雄二君! わかる!? 夢子が高校生になったからパパが張り切っちゃって! ほらあの人、夢子に目がないでしょ?」


「そーすね」


「ほらー見て見て! そのテレビ台の上の写真! 私のお気に入りなの! 夢子が受験して合格したんだけど通わなかった女子校の制服の写真! あの子雄二君に見せてたっけ?」


「はい見ました」



 夢子のドッキリ大作戦で使用された制服だ。


 そういえばあれから忙しくて、夢子のドッキリの全貌をまだ聞いていなかった事を思い出す。



「使わないのに可愛いからっていう理由だけで買っちゃったのよ!? 信じられる!?」


 少し興奮気味の口調でテーブルに置かれたコーヒーを一口含む。


 うん、俺好みの甘め。さすが京香さんだ。


 あのドッキリの謎、夢子は答えてくれなかったけど、京香さんなら教えてくれるかも。



「あの、京香さん」


「ん〜?」



「夢子、何で今の高校に進学できたんですか?」



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