13.駅のロータリーで、愛を叫ぶ



「イヤー! 買っタ買っタ! 本当に大満足だヨ!」


「そりゃよかったな」


「日本サイコー! さすがアニメの聖地! 物欲が止まらなくなっちゃっタ!」


「よくもまあ、こんな時間まで買い続けられるもんだ」



 夕暮れ。

 蒸せるような人混みが幾分かましになったショッピングモールを出て、駅へと続く連絡通路をトボトボ歩く。


 上機嫌そうな声を上げて両手を羽のように広げてクルクルと回るアリスを、両手に大量の紙袋をぶら下げた俺と和馬は恨めしげに見つめる。



「こんだけ買ってまだ足りないって言われたら、さすがに引くわ」


「もう二度と付き合わんからな。次はお前だけでやれよ雄二」


 そうは言っても、結局最後は助けてくれる親友に次も期待したい。


「今日はホントにありがとネ! ユージ、カズマ!」



 振り向いたアリスの満面の笑顔。



「.........喜んでくれたんなら、いっか。なぁ和馬?」


「最低限な。だが、さっきの言葉を撤回するつもりはねぇ。一個貸しだからな」


「はあっ!? ちゃんとアイスおごったじゃん!」


「黙れ!? お前本気でそんなもんで買収出来たと思ってたのか!? 舐めんなマジで!」


「じょ、冗談じゃん。そんな怒んなって。今度ちゃんとお礼させて下さい」


「当たり前だ! そういえばあれから結局夢子ちゃんに会えなかったな」


「......ま、帰ったら謝るよ」


「そっか。ん? なんか聞こえないか? 叫び声?」



 確かに和馬の言う通り、遠くから微かに人の叫び声が聞こえる。



「ねぇ! あれ見てユージ!」



 相変わらずのテンションでアリスが何か指差してぴょんぴょん跳ねている。

 

 アリスの指差す先ーー連絡通路の下にある駅のロータリーに、なにやら人だかりが出来ている。


 その人混みの中心、円形のステージの近くに掲げられたアーチ状の看板に書かれた文字を読む。



「大声自慢。青春、若者の主張コンテスト?」


「スゴイスゴイ! アタシもやりたイ!」


「アリスならいい成績いけるかもだけど、よっぽどもう締め切ってるだろ」


「えーっ! 残念......」


「そう落ち込むな。また次来ればいいだろ?」


「......うン。また来ればいいんだもんな。えへへ。メルシー、ユージ!」



『さー! それでは次の挑戦者行ってみましょー!』



 駅のロータリーに響く甲高かんだかい女性司会者の声。



「お、次の人やるみたいだそ」


「次の戦いのために、敵のレベルを把握しておくカ!」



 隣で鼻息を荒げるアリスを無視してステージに注視する。


 次の人は女の人か......って、ちょっと待って!?


 目は悪くないが良くもない。

 だがあの外見、間違いない......



『お名前聞かせてもらえますか?』


「桜木夢子です」


『可愛らしい方ですね! 高校生かしら?』


「はいそうです」


『あらー! ではでは、今日は誰の向けて叫びますか?』


「私の幼馴染に向かって叫びます」


『きゃー! 青春の予感! ではでは、準備が整い次第いっちゃって下さいっ!』


「夢子ちゃん!? おい雄二! あれ夢子ちゃんだ! いいのか止めなくて!」


「いいも何も、もう止められんだろ」



 ステージで目をつぶった夢子が深呼吸するように肺いっぱいに空気を取り込んでいる。


 何を叫ぶつもりだろう。


 ただ一つらわかることがある。


 良いことを言われる事は間違いなくないだろう。



「雄二っ! 雄二は私の事、どう思ってるか知らないけどっ!」


 

 予想以上に通る声。



「なあ雄二、夢子ちゃんこっち向いてね?」


「まさかぁ」 



 ここはぼちぼち人の往来おうらいのある連絡通路の上。


 それにここからお立ち台までは結構距離が離れている。


 もしそれが本当なら、隣に目立つアリスがいたとしても、さすがにエスパー過ぎる。



「ずっとずーっと前からーー」



 キレられるのかな? 呆れられるのかな? それとも罵られるのかな?


 ここで息を吐き切ったのだろう、再び夢子が全身を使って空気を吸い込み、そして吐いた。




「あなたの事が好きっ! 大好きっ!」




 湧き上がる会場。真っ白になる頭。熱くなる顔と耳。



『きゃあっ! 幼馴染君に届いたかな? 夢子ちゃんの想い! 青春、ありがとうございましたー!』


 

 ぺこりと頭を下げる夢子に駆け寄った興奮気味のアナウンサーさんマイク越しに声を掛ける。


 大丈夫、声は届いてる。目的はさっぱりわからんがね。



「......上等ダ。幼馴染」



 だがアリスには何やら刺さるものがあったみたいで、低いうなり声みたいな声を上げて、食い入る様にステージをにらんだ。




 

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