12.ねぇ、私の事、そんなに嫌い?




「夢子......? 何でここに?」


「茜ちゃんと一緒に買い物に来たのよ。ねぇ?」


「ええ。で、お二人はいつまでそんな恥ずかしい格好しているつもり?」



 茜のびっくりするぐらい冷たい声と視線に、慌てて椅子から立ち上がる。



「あっ! む〜〜っ! 食べてよユージ! 邪魔すんナ! 幼馴染とクラス委員!」



 頬をリスみたいにふくらませたアリスの声に怒気どきともる。



「邪魔なんてしてない。雄二が、あなたから離れただけ」


けがらわしい」


「んだとォ〜!」


「みんなやめろ! 人が見てる!」



「何だ何だ修羅場か?」


「三つ股っぽいぞ」


「若いね〜〜」



 冷やかしじみた周りの声に顔が急速に熱くなるのを感じた。


 が、そんな事まったくお構いなしの三人の語気は更にヒートアップしていく。



「アタシが今ユージと遊んでるノ! どっか行ってヨ!」


「私達がどこで遊ぼうがあなたには関係ないでしょ? そこに、、あなた達がいるってだけで」


「ヘリクツだ!」


「というか不純です。出会ったばかりの男女が公然の場であんなことするとは。プレイボーイ。やはり噂は本当だったようね」


「茜!? 違う! これは本当に違うんだ!」


「違うとは何が?」


「もー知らないっ! イコッ、雄二!」


「アリス!?」



 茜にいだかれた誤解を解けぬまま、アリスにつれられてその場を去ろうとした瞬間、シャツを後ろから引っ張られて足が止まる。



「待ってよ、雄二」


「な、なんだよ」



「ねえ、私の事、そんなに嫌い?」



 息が、止まった。


 夢子と出会って十五年。

 こんな表情、今まで一度も見たことがない。



「雄二君、最低です」


「ちょっと待ってくれ! 夢子とアリスを別々にするのは二人の仲が悪いのが原因で......」


「もうっ! そんなやつらっとコ! ユージ行くヨ!」


「ちょっと!」



 アリスに引っ張られ、掴まれていたシャツが夢子の指からすり抜けた。





「雄二、よかったのか?」


「.........色々、よかねぇよ」



 あの表情が頭にこべりついて離れない。


 茜に誤解されたままなのも辛いが、あの夢子の顔を思い出すたびに胸がモヤつく。


 いつもみたいに小言言ってくれたらこんな気持ちにならないのに......


 罪悪感。

 その三文字が頭を支配して何も考えられない。



「どうしたノ、ユージ? 顔が暗いヨ? ほら笑っテ笑っテ!」


「大丈夫。何でもないから」


「その顔のどこが大丈夫なんだ? 全然笑えてないぞ。まだそんなに離れてないし、謝るなら早い方がいいじゃねぇの?」


「謝るったって、何を......そもそも俺、なにも悪いことしてないし......」


「ああもうっ! ごちゃごちゃうるせぇ! 引っかかってんなら、会って話して楽になってこい!」


「和馬......でも......」


 

 ため息をついた和馬がアリスの首根っこを掴んで捕まえる。


「ああっ!? 何をスル!?」


「行ってこい。こいつは俺が見とく。あんま世話かけるな」


「.........ごめん」



 夢子とのケンカは日常茶飯事。


 何度もケンカして仲直りしてきた。でも、



 ーーねぇ、そんなに私の事、嫌い?



「嫌いな訳、ないだろ」



 今なら簡単に言える、何気ない言葉。


 だけどあの時すぐに言うことができなかった。


 見たこともない悲しそうな表情。

 あの顔が心をざわつかせる。


 人混ひとごみを避けて辿たどり着いたさっきのフードコート。


 だかそこに夢子の姿はなかった。

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