11.アリスの休日【修羅場】




「うわぁ〜おっ! ジャパニーズカルチャーはやっぱ凄いネ!」


「おーい! そんな一人で遠く行くなよー!」



 アリスのやつ、全然聞いてねぇ。ずんずん先行きやがる。下手したらはぐれるぞ。


「いやぁ、しっかしすげぇなこれ」



 隣でため息混じりに見上げる和馬にうなづく。



「な。正直侮あなどってたわ」


「本当それ」



 商業施設のど真ん中。

 十二時ちょうどに行われる、最近話題の大規模屋内噴水ショーに度肝どきもを抜かれている。


 プロジェクションマッピングにライトアップ。

 どれもこれもかなりのクオリティだ。


 さっきからテンションが爆上がってるアリスの気持ちも理解できる。


 まさかこんなド田舎の商業施設の噴水ショーに、ここまで心奪われるとは思いもしなかった。



「あの子綺麗......」


「日本人、じゃないよね?」


「モデルさんかな? 顔ちっさ。それに目大っき......」


「声かけてみよっかな......」



 そんなきらびやかなショーよりも男をきつけてしまうのは異国の美少女であるアリスだ。


 金髪碧眼きんぱつへきがん、さらにそこに片言のハイテンションとくれば、目立つに決まっている。


 アリスの周りを既に複数の男達が取り囲んでいるのが見てわかった。



「和馬」


「ああ。ちょっとよくないかもな」


「ヤッホーィ! いいぞヤレヤレ! もっとヤレ!」



「こんにちは。君カワイイね。一人?」


「うン?」


「よかったら僕らと一緒に遊ばない?」


「えっ、や、あのゥ......一人ではなくて......」



「ごめんね。この子、俺の連れなんだわ」


「ユージ......!」


「んだよ、男連れかよ」


 腕に抱きつくアリスを見た周りの男達がため息を吐き捨ててどこかに去っていく。



「だからあんまり離れるなって言っただろ? まあ、楽しいのはわかるけどな」


「ごめん。それと、メルシー......また助けらレた......」


 怖かったんだろうか、さっきまでの元気はすっかりりを潜めている。


 腕に抱きつく力を増したアリスの頭を軽くでる。



「ホントにユージは優しイ......」


「んなことない。普通だ普通。あ、噴水ショー終わっちゃったな」


「......うん。でも大丈夫! また観に来ればいいかラ!」


「俺はパス。こんな人混み正直うんざりだわ」


「えー。カズマ、ジジ臭いゾ」


「ジジ臭くて結構。観に行くんなら次は雄二と二人で行くんだな」


「ユージと、二人......?」



 呟いたアリスが上目遣い気味に覗き込んでくる。



「ねぇユージ。また、アタシと一緒にショー観に来てくれル?」



 ほんのり桜色に染まった白い頬。揺れる潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。



「別に......いいけど」


「やったー! メルシー、ユージ!」

 

 ぶっきらぼうに答えて、ようやくアリスの瞳から目をらせた。


 体が熱い。

 反則だ。あんな顔されたら断れない。



「てかさ、そろそろ腹減らね? 俺マジで限界なんだけど」


「あー、じゃああの辺で簡単に済ませちゃう? 並ぶの面倒だし」


「じゃあアタシ買ってくるヨ! お礼にお昼はアタシが奢るヨ!」


 視線の先の並びの少ないファーストフード店を指差すと、アリスが一目散で駆けていく。



「すげぇなあいつ。体力無限かよ」


「多分、楽しいんだと思う。ほら、めちゃ笑顔じゃん」


「ならよかったじゃん。楽しんでもらうっていう、当初の目的達成できそうで」


「だな」

 

「おーい! 二人トモ! 注文し過ぎちゃったから運ぶの手伝っテ!」


「はいはい」


 あれだけ楽しそうなら休日を返上した甲斐があるってもんだ。


「て、お前! これはさすがに頼み過ぎだろ!」


「ごめん。珍しくてツイ......」



 トレーの上には大量ポテトと大量のハンバーガー。そしてサイドメニューが複数。



「でも二人とも男の子なんだシ、これぐらい食べ切れるでしょ?」



 アリスがポテトを一つつまんで俺の口元に差し出してくる。



「はい、アーン」


「やめろ恥ずかしい!」


「いいじゃん! いいじゃん!」



「随分楽しそうね、雄二」

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