10.アリスの休日【不穏】




「マニフィック! 素晴らしいネ! ユージ!」


「マニ......? なんか知らんが、喜んでくれてるんなら何よりだ」



 休日。


 俺はアリスと和馬と一緒に、近くのデパートに来ている。


 高校の周りはド田舎ガラパゴスだが、二、三駅先に行けば、ある程度近代化した所に行くことができる。



「はあ。なんで貴重な休みに俺まで......」



 気だるそうに愚痴ぐちる和馬の肩を叩く。



「アリス、まだこの辺りのこと知らないし、引っ越したばっかりで何かと物入りなんだってさ」


「いろいろ物入りなのダ!」


「んなこと知るか! こいつの世話頼まれたのはクラス委員のお前だろ!?」


「冷たいやつだなー。あんまり細かい事気にすんなよ。後でアイスおごってあげるから。ね?」


「ガキ扱いするんじゃねぇ!?」


「アイス!? アタシも食べたイ!」



 怒鳴どなる親友とぴょんぴょんねる留学生を一旦いったんなだめて、親友の前で両手を合わせて頭を下げる。



「頼む。今日、和馬と遊ぶ事にしてんだよ。バレたら......わかんだろ?」


「バレたら共犯じゃん。そんな事だろうと思ったから嫌なんだよ......てか、それこそ夢子ちゃんと三人で行けば......あ」


「アリス、夢子のこと苦手だろ?」



 初めて顔を合わせたあの日から二人はずっと犬猿の仲。


 顔を付き合わせばアリスがキャンキャン夢子に吠えて噛み付いている。


 不気味なのは、それを受け止める夢子が常に笑顔で無言って所だ。



「クラス委員繋がりで、あかねに頼むのがすじなんだろうけど、休日に気軽に誘えるほどまだ仲良くないし。てか連絡先知らない......」



 あ、あれ? なんか辛くなってきた。



「わかった! わかったから泣きそうになるな恥ずかしい! たく、しゃあねぇから付き合ってやるよ」


「ありがと! 和馬!」

「メルシー! 和馬!」


「......お前らめんどくせぇな。ほら行くぞ」


「「はーい!」」



 ーーへぇ。ずいぶん楽しそうね。



 スッと胸の辺りに悪寒が走る。

 ごくりと喉が鳴る。


 背後に感じた不穏な気配に、地面と靴底くつぞこ瞬間接着剤しゅんかんせっちゃくざいでくっつけられたみたいに動かなくなる。



「ユージ、どうしたノ?」



 振り向いた先ーーそこはただの人混み。


 気のせい、か?


 一瞬頭をよぎった、夢子の無表情は......



「ねぇユージ、早くイコ! アイスアイス!」


「うおっ!? そんな強く引っ張んなっ!」



 走るアリスにつられて俺も駆け出す。


 ちょっと考え過ぎたな。

 夢子がこんなところにいるはずがない。


 今はどうすればアリスにとって楽しい休日になるかを考えるべきだ。

 せっかくこんな所まで出張ったんだし。


 いつも笑顔のアリスだけど、ひょっとしたら日本に来たばかりで不安があるのかもしれない。

 


「早く早く! 早くしないと、アイス溶けちゃうヨ!」


「はいはい。ほらー、和馬行くぞー」


 まゆの字に曲げるアリスに適当に相鎚あいづちを打ちつつ、ムスっとする和馬の手を引いて自動ドアを三人でくぐった。



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