09.三つ巴



「アリス・フランベールデス! フランスから来ましタ。好きなものはジャパニーズアニメ! よろしくネ!」



 翌日、朝のホームルーム。


 昨日出会った、浮世離うきよばなれした異国の少女が元気よくクラスメイトに挨拶する。



「お人形さん......」


「なんなんだよこのクラス、女子のレベルが高過ぎて辛い......」


「桜木さんに秋名あきなさん。その上、フランス美少女、だと......?」



 興奮するクラスの男子達。まあ気持ちは分からんでもない。


 出会い方も普通で、茜に出会う前だったら、みんなと同じ反応をしてたかもしれん。事実、美人だし。


 頬杖ほおづえをついてアリスを横目で見ると、バチっと目が合う。

 


「あっ! ユージ! ヤッホー!」


「お、おお......」



 まるで無人島遭難者のごとく、ぴょんぴょん飛び跳ねて両手を振るアリスに軽く手を上げて答える。



「なんかお前、妙に懐かれてんな」


「昨日、あいつの事助けたからかな?」



 別に懐かれるのはいいんだけど、注目を集めるのはやめて欲しい。



「さ、佐伯ぃいいい......」


「また貴様か。このイケメン野郎......」


「桜木さんと秋名さんだけじゃ足りんのか、あぁ!?」


「リア充爆発しろ」


「女ったらし。遊び人」


「おいこら夢子ぉ!? どさくさにまぎれて悪口言うな! 聞こえてんぞ!」



 振り返って遺憾いかんとなえてやろうとして、俺の息が止まった。



 無表情でじっと前を向く夢子。



 目が合った俺の背に、嫌な汗が一滴走ったのがわかった。



「どうした雄二?」


「何でもない。大丈夫......」


 

 心配そうに見つめる和馬に応えて前を向いて顔を両手で覆う。



「はーい静かに! そうだなぁ。アリスはまだ日本語も不安だし、気の知れたやつがサポートするのが良さそうだが......」


「センセ! それならアタシ、ユージと一緒がいい!」


佐伯さえきか。本当は秋名あきなにお願いしようと思ってたんが......まあ、同じクラス委員だしいいか。おーい! 佐伯の隣の左右席、どっちか譲ってやれ!」


「えっ!? 先生、本当に俺でいいんでしか!? 俺より茜の方が適任なんじゃ......」


「ユージー!」



 先生への講義を言い終えるよりも早く駆けつけてきたアリスが俺の腕に抱きつく。



「ヨロシク! ユージ!」


「やめろっ! 抱きつくなっ! はっ!」



 視線を感じる。重く冷たい視線。


 教室の前方。そこで振り向く茜がジッと俺を見ていた。

 


 ーー上手く言えないんだけど、秋名がお前を見る視線、たまに重いなって思う時があってさ。



 昨日和馬に言われた言葉が頭の中で反芻はんすうする。


 そんな重厚じゅうこうな視線がふとさえぎられる。


 遮ったのは、他でもないさらなる殺気をかもし出す幼馴染だ。


 貼ってつけたようないびつな笑顔を浮かべた夢子が俺とアリスの前に立つ。

 


「よろしくね、アリスちゃん。私、桜木夢子。夢子でいいよ」


「......うーっ! ユージ! なんかこの人の笑顔怖いヨ!」



 ちょっと痛いぐらい腕を抱いてくるアリス。


 当たっちゃいけないものが当たってる気がするが、それどころじゃない。


「おまえ、夢子のあの笑顔が作り物ってわかるのか?」


「わかるに決まってるヨ! 気持ち悪い!」


「散々な言われようね。そろそろ雄二から離れてくれるかしら?」



 睨み合う両者。


 少し立ち位置のズレた夢子の背後からまだ俺を睨む茜の視線。


 このカオスな状況に、目頭が熱くなって来た。



「ふぇっ。和馬ぁ.....」


「やめろ。俺を巻き込むな」


「お願いだから見捨てないでよぉおおおっ!」




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