08.フランスからの留学生、アリス・フランベール




「俺、今日、告白する」



 クラスメイト達の笑いの声がかすかに聞こえる校内バーベキュー場の裏。


 そこにある人気のない炭捨て場で親友に向かって宣言する。


 が、聞いた本人は否定の色を顔いっぱいににじませて大きなため息を一つ寄越よこした。



「やめとけ」


「なんでだよー! 背中押してくれよ!」


「バカ。無駄死しようとしてる親友の背中を押す訳ねぇだろ。今告白しても間違いなくフラれるそ? お前もわかってんだろ?」


「そうかも、しれないけどさ......」



 正直、焦ってる。


 ファミレス会議以降、あかねと話す機会はあれど、進展している感じはない。


 むしろ俺以上に夢子と仲良くなっている気がする。


 このままじゃ中学時代の二のまいになる。

 


 俺の青春が、終わってしまう。



 それが頭をぎるたび、何かしなきゃとさかかされる。



「雄二、顔上げろ。お前の気持ちは、わかるけどな」



 無意識のうちに下がっていた顔を和馬に指摘されて持ち上げる。



「でもあんま焦んな。高校生活、まだ始まったばっかだろ?」


「でも......」


「大丈夫。バーベキュークイズ大会も大成功。クラスメイトからの株も上がった。それに秋名あきなとの関係も、俺には順調に進んでるように見える」


「えっ!?」



 思ったより大きな声が出てしまい、和馬が不快そうな表情と共に体をらした。



「うっせぇな......お前気づいてねぇの? 暇さえあれば秋名、結構お前の事見てるぞ」


「マジか」



 何それ、嬉しい。


 こらえてもこらえても、口元がゆるむのを止められない。



「たく、お前は恋に恋し過ぎなんだよ。あんま焦んな。焦って告白しまくったら、それこそまた中学の時みたいな変なうわさ立つぞ」


「プレイボーイ.........」


「そ。それ。あながち嘘じゃないから、否定できなくて困ったんだよなー」


「否定しろよ親友だろ!?」


「軽々しく親友使うな。しかしお前、中学の時はとことん女子に嫌われてたからなー。そのせいで、俺までけられてたし」


「そうだっけ? モテないの俺のせいにしてない? そういうの良くないと思うよ?」



 無言で後ろを向いた親友の背中に慌てて飛びつく。



「ジョーダンじゃん! ジョーダン! 本気で受け取らないでよー!」 


「...............そういうとこ、夢子ちゃんそっくりだな。お前の事だから、その内、違うやつのこと好きになったりとかして」


「それはない! 俺は茜一筋だ!」



 それに関しちゃ自信がある!


 自分でも驚くほど、茜にかれてるのがわかるからな!



「それなら、いいけど」


「んだよ、歯切れ悪いな。気になることでもあるのか?」


「んー.........なんていうか、秋名、大丈夫かなって」


「え、どういう意味?」


「上手く言えないんだけど、秋名がお前を見る視線、たまに重いなって思う時があってさ。見るっていうか、凝視してるっていうか......なんか狂気チックな雰囲気感じる時があるんだよね」


「そうなの?」


「ま、多分俺の気のせいだわ。忘れて。肝心のお前が秋名の視線に気づいてなかったし。じゃ、俺先戻ってるから、その炭捨てるのよろしく」


「ちょっと!? まだ結構残ってるんですけど!」



 クソ。逃げられた。


 まあ、バーベキューパーティが成功したのは和馬の功績も大きい。ここは目をつぶってやるか。



「アノぅ......」


「おわっ!?」



 突如、脇のしげみから聞こえた少女の声。


 びっくりし過ぎて、一瞬マジで心臓止まったかと思った。



「バーベキュー場はどこですカ?」


「向こうだけど......こんなとこで何やってんだ?」


「道に迷ってしまっテ......」



 片言の日本語。


 茂みにたたむ困ったような表情を浮かべる少女は、一目で日本人でないとわかった。



 肩の辺りまで伸ばした色素しきその薄いブロンドの髪。


 整った小さな顔の大半をしめめる大きなエメラルドグリーンのひとみが、の光を反射してキラキラと輝いている。

 


 綺麗というか可愛らしい。



 突然の美少女の登場に、普通なら息をむシーンだがご生憎様あいにくさま、このシュチュエーションがそうはさせない。



「どっから出てくるんだよ。あーあ、制服泥だらけだし、頭に葉っぱ乗ってるし」


「アリガト、ゴザイマス......あなた、優しい......」



 差し出した俺の手を握り返した彼女を茂みから引きずり出し、汚れを簡単に払ってあげる。



「これぐらいどうってことないよ。バーベキュー場に用があるなら連れて行こうか?」


「メルシー......やっぱりアナタ、優しい......」


「め、める? まぁいいや。で、バーベキュー場に何か用でもあるのか?」



 俺の問いに異国の少女は小さく首を縦に振った。



「アタシの名前、アリス・フランベール。フランスから来タ留学生。佐伯さえきユージに会いたい」



「え?」



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