06.ファミレス会議①




「なぁ雄二、クイズ大会なんてどうだ? 自分のことについてのクイズにすれば、みんなのことを知れて、盛り上がるんじゃないか? 景品とかも用意してさ! 多少予算も出るんだろ?」


「えー? なんか暗くない? せっかくお金あるんだったらもっと派手に使おうよ! ねね、雄二、バーベキューパーティとかどう? この学校、バーベキュー施設あるんでしょ? 楽しそうじゃん!」



 俺は今、イラついている。



 機嫌に身をまかせて吸い上げたストローの根本からズロローっとお行儀の悪い音がした。


 駅前のファミレスに入店してわずか十五分。


 三杯目のドリンクが底を付くという、俺史上、異例のペース。


 理由は言わずもがな、奴らだ。



「「雄二はどう思う?」」



 目をキラキラさせて向いの席に座った夢子と和馬が身を乗り出して俺と茜に詰め寄ってくる。


 ストローを咥えたまま、俺は無言で手を挙げた。



「「はい雄二君!」」



「なんでお前らがここにいる? 話はそっからだ」



 ストローを外した口から飛び出た声がびっくりするぐらい低くて、自分でも驚く。


 が、目の前の少女はなーんも気ならなかったようで、笑顔をくずさなかった。



「だからさっき言ったじゃん。偶然だって! ぐ・う・ぜ・ん」


「嘘つけぇ!」


「えーっ。信じてよぉ......」


「そんなあざといポーズしても俺はだまされんぞ。こちとらお前の幼馴染、十五年やってんだ!」


「むーっ! なによ雄二のバカッ!」


「あっこらっ!」



 ハムスターみたいにほほふくらませて席を立った夢子は、オレのコップをぶんどってドリンクバーコーナーに行ってしまった。


 なので残った親友、和馬に視線を向ける。


 すると両手を挙げてあっさりと口をった。



「夢子ちゃんがさ、雄二と秋名あきなさんが親睦会の内容決めるのに悩んでそうだから協力しようって。で、昼休憩のときに雄二が駅前のファミレスで打ち合わせしようって誘ってたの聞いちゃってさ」


「それで?」


「来ちゃった」


「来ちゃった。じゃねぇええっ! お前わかってるよね!?」



 俺がどんだけ平然をよそおってファミレスに誘ったか!?


 放課後二人っきりでファミレスとか、デートだよ! デートのお誘いしたんだよ!?



 ああ、目がチカチカする。血の涙って本当に流れんのかな? 今なら流れそう。


 まあ、和馬は百歩譲ゆずれば許せる。


 問題は夢子だ。

 


 絶対余計な事してくる。



 夢子がこう言う場にいてよくなるはずがない。



「和馬、お前って俺の敵だっけ? 邪魔したいの?」



 親睦会企画というか、主に俺の恋路の方で。



「わ、悪かったって。謝るからそんな睨むなよ。二人に協力したいって気持ちは本心だから」


「そうだよっ!」



 ドカンと勢いよくテーブルにコップを置いた夢子がさっきのハムスターフェイスのままにらんでくる。



「雄二と秋名さんにだけ押し付けるのは違うって思っただけなのに! なのに......なのに酷いよ、雄二......」



 はっ! 次は泣き落としか。


 だがそれ、かんよ。


 お前の人を落とすボキャブラリーには本当感服かんぷくする。


 てか入れてきてくれたの、アイスコーヒーか。しかも甘め。俺の欲するものをピンポイントで用意してくれるとはそこはさすがだ。



「ありがとう、桜木さん。正直助かるわ。私達の考えも煮詰につまってた所だし。これ使って?」


「秋名さん......ありがと」



 凛としたイメージとはギャップを感じる、ピンクのレースのついた可愛らしいハンカチを泣き真似する夢子が受け取る。



「女の子を泣かせるなんてよくないわ、雄二君」


「ええっ!?」



 泣き落としが効いてる人がいた!?


 待って! 茜、だまされるな! そいつ今、舌出して笑ってるぞ!



「かわいそうに......せっかくいい事してくれてるのに、そんな言い方ないんじゃないのかしら?」


「そーだそーだ」



 茜が夢子に視線を戻す頃には再び泣き真似に戻っている。この野郎......



「雄二、やめとけ。相手が悪い」


「くそ......」



 首を左右に振る和馬。


 睨む茜。再び夢子が俺を挑発するようにちろっと赤い舌を出している。



「雄二君、ちゃんと桜木さんに謝って。親しき中にも礼儀ありよ」


「............どうも、すいませんでした」



 ほーらね。やっぱりこうなった。


 だから夢子と一緒は嫌なんだ。

 


 この一瞬の出来事で、茜の俺に対する好感度が予想通り見事に激減したのを肌で感じた。




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