05.芽は、早めに摘んでおかなきゃね




「ただいまー」


「おかえりー雄二!」



 我が家のリビングから聞こえた幼馴染の声。


 リビングの扉を開けると、キッチンで母さんと仲良く並んで一緒に料理している夢子が笑顔で出迎えてくれた。

 


 .........不気味過ぎる。



 さっきまで校門で待っていた夢子。


 正直、怒らせても仕方ない事をしてしまった自覚はある。


 何時間待たせたかわからない挙句、昼にファミレス行く約束もぶっちぎってしまったし。



「あ、今日は雄二の大好きなアジフライだよー!」


「夢子、その......さっきはごめんな?」


「えー? なにが?」


「や、その、ずっと校門で待たせちゃっただろ?」



「...............なぁんだ、そっちか」



「え?」


「ううん。なんでもない。待ってて、お母さんとすぐに作っちゃうから。あっ、お母さん、腹開はらびき私がするよ」



 あれ、怒ってない? てっきり怒ってるもんだと思ったんだが......



「あらそぉ? ありがと夢子ちゃん」


「えへへ!」

 


 ズドン。



 まな板に当たる重厚じゅうこうな刃物の音と共にアジの首と胴が分断される。


 頭を落とすには少々、力み過ぎてると思うのは俺だけだろうか?



「ゆ、夢子?」


「なあに? 雄二」



 .........すいません。さっきの甘い考え、全て撤回させて下さい。



 顔が一切笑ってねぇ。



「んもぅ。本当夢子ちゃんってば、ホントに可愛い!」


 どこが!? 母さんは夢子のどこを可愛いって言ってるの!?


 アジの返り血を浴びて微笑む姿に可愛げは1ミリもないよ。


 むしろ恐怖で足が震えんだが。



「あーあ。すぐにでも娘にしたいわー。それなのにごめんね。バカ息子が鈍感で」


「えへへ。ありがとーお母さん。うん、ほんとに雄二って、鈍感」


「ごめん。本当にごめん」 


「そういえば秋名さんとは仲良くなれた?」


「え? あー、うん。まあボチボチ。そうだ。明日もまた帰るの遅くなる。放課後、あかねと親睦会の企画考える事にしたから」



「茜?」



秋名あきなさんの下の名前だよ。自己紹介で言ってたろ」


「.........へー」



 感情のない返事。


 俺の話を聞きながら先ほど頭を落としたアジの体内から内臓を取り出している。


 料理に集中しているせいか、返事が素っ気なく聞こえた。



「もう名前で呼び合う仲になったんだね。雄二って、ほんとコミュ力高いよね」


「えっと、それはほめめられてるのか?」



 問いかけには答えてはくれない。


 代わりに夢子は大きなため息を吐いた。



「芽は、早めにんでおかなきゃね」


「え? なんの?」


「ん? なーいしょっ!」


 人差し指を口に当てて軽くウインクする夢子。


 あざとい。でも母さん、今はちょっと可愛いかったかもしれない。



「さ、雄二は座ってて! 揚げるから油飛ぶよー!」


「はいはい」



 あれ、機嫌よくなった? 相変わらず機嫌コロコロ変わるな。


 夢子と出会ってもう十五年経つけど、その辺正直よくわからん。


 早く飯食って親睦会のネタ考えなきゃ。


 そんな事を考えながらテレビをつけてソファに座った。







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