第3話 秘めた力と過去への警告
アリスは自身が何かを脅かす存在として認識されていることに、驚き、この場を逃げ出したい気持ちになりました。
マクシミリアンはアリスの腕をつかんだまま、校長と呼ばれた男性に返事をしました。
「はい。学園の秘匿性を脅かす存在と判断し、連れてまいりました。」
男性はアリスに対して、部屋にあるソファへと座るよう身振りで促しました。
そのときになって、やっとマクシミリアンの手はアリスの腕からはなれ、アリスの緊張も和らぎました。
すすめられたソファは柔らかく、アリスの体をふわりと受け止め、先ほどまでの不安な思いが安らぎました。
校長と呼ばれた男性とマクシミリアンも同じくソファへと腰掛けました。
隣に座ったマクシミリアンを盗み見ると、その眼にはアリスへの強い警戒心が浮かんでおり、アリスはおもわず目を伏せました。
目の前に置かれた深紅の檀の机を挟んで、座った校長は低く落ち着いた声音でアリスに問いかけました。
「君がすでに知っているかもしれないが、ここは外部からの侵入を防ぐ魔力がかけられた場所だ。どうやって君はここまで辿り着いたんだ?」
彼女は顔を上げ、その誠実な瞳を校長に向けた。「私は…特別なことはしていません。ただ街を散策していて、気がついたらここにいました」
彼は頷いて、「なるほど、特別なことは何もしていないというわけだ。しかし、それでもここにたどり着いたということは…」その言葉が未完のまま、彼は深く考え込むように見えた。
男性はマクシミリアンの方へと向き直ると、この建物にかけられた魔法について、異常やなにか気づいたことはなかったかと問いました。
マクシミリアンの見解では何も異常はないということでした。
しばらく何事か思索にふけっていた様子の男性は、アリスをじっと見つめると、口を開きました。
「となると、君はここに招かれた人間ということになる。でも残念ながら君からは魔力を感じない。私に感知できない不思議な力を君がもっているということなのだろうか。」
そう問いかけると、隣に座ったマクシミリアンがあきらかに動揺する反応を示しました。
その様子を見て、アリスはマクシミリアンの男性の能力に対して、絶対的な信頼を寄せていること、その男性にすら感じ取れない得体のしれない力を秘めている私に対する警戒心を感じ取りました。
アリスは、このままでは、正体不明の危害を及ぼす存在として認識されてしまうと危惧し、意を決して、先ほどまでに自分の身に起こった信じがたい状況について話し始めました。
「私は未来から来た人間なのです」と彼女は始めた。校長の顔には驚愕も畏怖もなく、ただアリスの次の言葉を待っている様子でしたが、マクシミリアンの眉間には深い猜疑心があらわれていました。
「未来だって?この世に時空移動する魔法は存在しない。」
「まあ、まちなさい。話を最後まで聞こう。」
「はい。ありがとうございます。」
そしてアリスは魔法の本のこと、自分が住んでいた町が邪なものに占拠され、人々は心身を病んで、破滅に向かっていることを説明しはじめました。
彼女はこんな荒唐無稽な話を誰が信じるだろう? と疑心暗鬼に陥りながら、必死になってどうにかわたってもらえるように細部にわたって未来の街がいかにひどい状況か伝えようとしました。
彼女は話し続けました。信じてもらうことが自分の使命であり、彼女が未来から運んできた希望の種をここに播くための第一歩だと理解していたからです。
彼女は自分の家族や友人の死についても語りました。どうしても深刻さを伝えたかったからです。
話し終えたとき、彼女の頬は涙で塗れていました。
校長は彼女の言葉を真剣に聞き入れており、マクシミリアンさえ、まだ警戒は解かないものの、彼女の必死さに心動かされた様子でした。
アリスの話がどれほど非現実的であろうとも、彼は彼女の真剣さを感じ取っているようでした。深い皺が刻まれたその顔には深遠な理解が浮かび上がり、黙って彼女を見つめる目には静かな憐れみが滲んでいた。
彼は短い沈默の後、力強い声で言った。「アリス、君の話が信じられないとは言わない。ただ、それが事実であるかどうか検討する時間が必要だ。」
アリスはその返事が聞けただけでも、うれしく思いました。この世界において、自分の立場を知ったうえで、自分の存在を認めようと動いてくれる人が一人いるだけでも、心強く思いました。
「どうだろう。少し君のことをこの学校で預からせてもらえるかな。その話だと、住むところもないようだから、しばらく衣食住を提供しよう。」
その申し出はアリスにとって願ってもないことでした。
「ありがとうございます。」
そういって、アリスはこの建物に滞在することになりました。
深淵の探究者 @moringa
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