56
「雨降ってきちゃったよ」
引き戸を開けた荒木さんは、そう言って困ったように笑った。
「瀬川君が来た時は大丈夫だった?」
そう尋ねられて、僕はひとつ頷いた。空は今にも降り出しそうな色をしていたが、僕が来た時はまだ雨は降っていなかった。
「そっか、ラッキーだね。天気予報ではくもりって言ってたのになあ」
荒木さんは折りたたみ傘をまとめると、カウンターの奥、部屋の角に立てかけた。傘から落ちた滴はすぐに床に水たまりを作った。
「ごめん、荷物置いてくるね」
僕の返事を待たずに荒木さんは店の裏へと消えていった。いつも通りのことだ。そしていつも通りなら二、三分で荒木さんが戻ってきて、僕は自室へ引きこもるだろう。雨が降っているというだけの、いつも通りの始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます